ソーシャルTVカンファレンスの最後のセッションはトークバトル。登壇者は北海道テレビ「水曜どうでしょう」のディレクター、藤村忠寿氏、同人誌「久谷女子」でお馴染みの博報堂DYの森永真弓氏、角川アスキー総研の遠藤諭氏、東芝レグザのTimeOnなどの高機能録画機能を開発した片岡秀夫氏、そして今回のソーシャルTVカンファレンスの発起人である境氏。番組製作の現場の生の意見、メディア全体の現状、ネットのパラダイムの話など多岐に渡る議論となりました。
「視聴者は友達」という感覚
北海道テレビの生んだ人気番組「水曜どうでしょう」は、番組ではTwitterもフェイスブックもやっておらず、今では名物ディレクターとなった藤村忠寿氏もソーシャルメディアはやっていません。ネットでの展開は、古いデザインの公式サイトくらい。にもかかわらずこの番組は口コミでの拡散力によって、全国区の人気を獲得した番組です。
藤村氏はファン同士が勝手につながっていっているので、わざわざこちらから何かする事はないと言います。
そんな水曜どうでしょうの魅力を博報堂の森永氏は、「学生時代の文化祭のビデオとか家族のホームビデオのような暖かい雰囲気がある。仲間内で見ると面白いもの」と分析しています。
それに関して藤村氏は視聴者のことを友達だと思っていると言います。顔の見える友達に向けて番組を作っている、そして視聴率もあまり気にしていないそうです。水曜どうでしょうはオンデマンド、そしてDVDの予約販売も大きな数字を挙げているので、それで十分すぎるほど稼げているし、番組が始まるころにはスポットCM枠はすでに売れているのだから、今更気にしてもしょうがないとのこと。友達のような視聴者からDVDを買ってもらえればそれで十分番組の予算は回収できるようです。
人とテレビを繋げる東芝レグザのTimeOn
レグザクラウドサービス「TimeOn」は、テレビモニタでテレビ番組を発見・共有・視聴するための様々な便利な機能を提供するサービスです。多機能テレビの多くの場合、内蔵ソフトでいろいろなサービスを提供しますが、TimeOnは完全ウェブベースでの提供なので、対応機種であれば、機能は自動的にアップデートされていきます。
ウェブ検索をするかのように、番組を検索でき、検索で発見した見どころシーンを頭出し再生できたり、TimeOnユーザーが番組のあるシーンにタグをつければ、そのタグの場面から再生できたりと、あたかもウェブコンテンツのようにテレビ番組を視聴できるようになっています。
その他、ユーザー作成のブックマークを共有したり、視聴中の番組に応じて自動的に検索セットを設定し、関連番組やオススメ番組を紹介する機能などもあり、人とテレビコンテンツを繋げる仕組みを実現しています。さらにはおまかせ録画コミュニティという機能ではたとえば好きなアイドルの関連コミュニティを登録しておけば、それだけで関連番組を全て録画予約してくれます。もちろん自分録画コミュニティを立ち上げることも可能。
もちろんTwitterなどとの連携機能もあり、現状日本で、ハードウェア側から出来る事において、最もソーシャルテレビの概念を総合的に捉え、具体化しているサービスがTimeOnではないでしょうか。
今回のバトルトークの登壇者でもある片岡秀夫氏の以下のインタビューが、「TimeOn」の思想を理解する上で役立つと思われます。
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マスマーケティング=狩猟、ソーシャルメディア=農業
博報堂DYの森永氏は、顧客のいつところに一斉に網を投げて掴むようなマスマーケティングと違い、ソーシャルメディアによるマーケティングはファンをじっくり育てるという意識が必要と語ります。ご自身も久谷女子という同人誌を作り、コミケなどで販売しておられますが、初参加の時は、あまり売れず、やはり何度も参加してファンがついてきてくれるようになってようやく売り上げ部数も伸びてきた、と言います。
コミケのような同人市場は、ソーシャルメディア的な作り手とファンの関係の先駆けであり、テレビのソーシャル化にもそうした農業的なマインドを持つことが必要になるでしょう。ソーシャルメディアを使った施策を思いつくことは簡単にできると思いますが、こうしたマインドを変えていくのが難しいところなのでしょうね。これもひとつ大きなソーシャルテレビの促進にとっての大きな課題です。
全てがネットのパラダイムに乗る時代
角川アスキー総研の遠藤諭氏は、3Dプリンターの隆盛をひきあいに出しながら、これからは全てがネットのパラダイムに乗る時代になると語ります。3Dプリンターで最も肝心な点は、だれでもモノが作れることではなく、モノのデータがネットで公開されることにあると言います。今後は物理的なモノもネットでデータとして共有・拡散、あるいはコピーされる時代にあるということですね。そういう時代に果たして、テレビだけネットのパラダイムに乗らないという選択肢はあり得るのかと遠藤氏は語ります。
ネットのパラダイムは必ずしもいいことばかりでないですが、この流れは不可避。Googleのエリック。シュミットは2020年までに地球上の人類ほぼ全員がネットに接続するようになるだろうと語っているそうです。それがどこまで実現するかわかりませんが、そうして時代にテレビがどう生き残るのでしょうか。
その鍵となるのはやはりコンテンツの力。流通経路がどうなろうと、力あるコンテンツは生き残り続けるであろうとのこと。
またそれに関連して、森永氏は3年前の新人研修でラジオを聞いたことがある人をいるか訪ねたところ、1人もいなかったが、ラジコを聞いたことのある人は何人もいて、驚いたというエピソードを紹介。ラジオとラジコを同一のものと見ていない若い人たちがたくさんいて、ラジオはネットのパラダイムに乗り、ラジコとして生きて続けている、と言えるかもしれません。
水曜どうでしょうのような、素晴らしいコンテンツは放っておいても自然にコミュニティが出来て、ソーシャルメディアなどで話題になります。あの番組はそうして口コミで人気が広がった作品ですが、ソーシャルメディアの施策を特に何も仕掛けていないけど、そのコンテンツの魅力ひとつでソーシャルメディアのパラダイムに乗ったと言えるかもしれません。
【ソーシャルTVカンファレンスの全レポート一覧はこちら】
- ソーシャルTVカンファレンスレポート:事前レクチャー編
- ソーシャルTVカンファレンスレポート①:Zeebox創業者Anthony Rose氏のセッション
- ソーシャルTVカンファレンスレポート②:日本のユーザー参加型テレビ番組事例
- ソーシャルTVカンファレンスレポート③:テレビ広告の真(新)の実力を考える
- ソーシャルTVカンファレンスレポート④:どうなる?どうする?ソーシャルテレビ
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