神奈川県厚木市に新しい映画館が4/26に誕生することになりました。「新しい」というと語弊があるかもしれません。かつて同じ場所に映画館があり、ビルの再オープンとともに生まれ変わることになるのですから。
4/26に旧厚木パルコ跡地に、厚木市が新たな商業施設「アミューあつぎ」をオープンします。パルコ時代にその9階にあった映画館が、2つのスクリーンと1つの多目的ホールを持つ映画館「アミューあつぎ 映画.comシネマ」として生まれ変わります。
突然ですが、このブログの筆者はこの度「アミューあつぎ 映画.comシネマ」で副支配人をやることになりました。
厚木パルコは1994年から営業開始し、2008年に閉店し、跡地がそのままになっていました。中のテナントは当然すっかり撤退して外観としてのビルだけが残っていた状態だったのですが、9Fの映画館だけは、上映設備もスクリーンも観客席も映写室も取り壊されずそのまま残っていました。厚木市民からの上映設備を残して欲しい、という要望が多く寄せられたためです。
かつては2つの映画館が厚木にはありましたが、2000年代中盤にともに撤退しました。様々な要因がありますが、電車で3分の隣町海老名にシネコンが2つも出来たのは大きな理由の1つでしょう。
映画.comシネマは、市設民営の映画館で、館の運営を手がけるのは株式会社デジタルプラスとなります。また公式サイトの制作と運用を日本最大級の映画情報サイト「映画.com」に手がけていただくことも決定しています。ウェブのトラフィックデータも活用した番組編成を行います。WEBメディアと連携して、映画館の再生に取り組んでいきます。
開館準備中の現段階でお話できることは多くないのですが、この映画館の運営に携わるにあたって、僕なりの意気込みと問題意識を、ここに所信表明に代えて記しておこうと思います。
現在の映画産業の課題解決の道筋を示せればいいなと僭越ながらに考えております。
O2Oにしっかりと取り組んでいきましょう
インターネットは実は映画の情報源となりきれていません。
ディムズドライブが発表した2013年12月に発表したネットリサーチで、映画の情報をどこから入手しているかの調査では、テレビやラジオのCMと回答した人が7割を超える一方、SNSやネットでの広告や口コミは1割前後に留まっています。
ネットメディアはまだ小勢力…映画情報の入手ルートを探る(不破雷蔵) – 個人 – Yahoo!ニュース
ソーシャルメディアやバナー広告などのインターネット経由のルートはそれなりに効果は出ているものの、テレビや新聞も口コミ、映画館自身と比べれば影響力は小さい。今件がインターネット経由で行われたにも関わらず、このような結果が出ている点を見ると、いかにテレビやラジオのCMが映画にとって重要なのか、そしてインターネット関連の広告は「映画情報に限れば」まだ大した影響力ではないことかが分かる。
ネットリサーチは通常のサンプリング調査よりも偏った数字が出がちですが、通常ネットの影響力が強い方向へ偏ります。ネットリサーチでこの結果ということは、恐らく実際にはネットの影響力はさらに小さいと考えられます。
つまり映画はオンライン情報から顧客をオフラインへあまり誘導できていないことになります。映画館に人の足を運ばせているのはテレビなんですね。
ゼロ年代以降は、テレビ局が制作する映画が多くなり、邦画の興行収入が上昇し、「邦高洋低」なる言い方が一過性のものではなく定着した感がありますが、主となる情報源がテレビである限り、テレビ局の作る映画が有利である状況は変えることができないでしょう。そりゃあ、どこの会社も自社の映画プッシュするに決まってますから。それ自体は単なるビジネスの最適化であって何も悪いことではありませんし。
2013年は年間封切り作品が初めて1000本を超えました。しかし映画の情報をテレビから取得するのが主流だとすれば、どれだけ公開本数が増えても多様性が広がっていきません。
2013年の映画概況、史上初の1000本以上公開も総興収は微減 : 映画ニュース – 映画.com
主としてこれを解決するのは宣言を担当する配給会社や、メディアの役割なのかもしれません。しかし、映画館は映画を見に来るお客様が最終的に足をは運ぶ場所であり、小売り店である映画館にもやれることはたくさんあるはずで、むしろ顧客獲得のために積極的に情報を発信していかなくてはならないと考えています。
課題はO2O。これへの取り組みはあらゆる市場での課題となっていますが、ここを何とかするために映画.comと協力してユニークな施策がうてればいいなと思います。
シネコンと共存するために
厚木にはかつて2つの映画館、6つのスクリーンがありました。両館とも90年代前半にオープンし10数年でその歴史を閉じることになったのですが、その大きな理由の1つにシネコンの台頭があります。日本初のシネコンとして海老名にワーナー・マイカル海老名(現イオンシネマ)ができたのが1994年。そして海老名駅前の大規模な再開発により、大型ショッピングモールが開業し、その中でもう一つのシネコンTOHOシネマズ海老名がオープンしたのが2002年。本厚木シネマミロード閉館はその3年後。パルコ跡地の厚木テアトルシネマパークも2008年に閉館となります。
TOHOシネマズ海老名なんかすごい賑わってるんですよね。僕も自宅から一番近い映画館ですのでよく行きます。もちろんイオンシネマにも行きます。
シネコンに一度は敗れ去った場所で再び映画館を運営する僕らは以前とは違う回答を示さねばならないでしょうし、また全く規模が違うため同じことをやっても意味がありません。改めてここで映画館をやることの意味を突き詰めて考える必要があると思っています。プログラムも含めた「スクリーンのある場所作り」をシネコンとは別の回答をここで出していかないといけない。それが地域の文化の多様性に繋がるでしょうし、シネコンと一緒になって映画館の文化を発展させていくことに繋がるはずです。
かつてこの街にあった映画館はシネコンと共存できなかったわけですが、その道を模索していきたいと思います。
ここ数年ミニシアターの閉館が相次いでいますが、ここで共存の道を示せれば業界全体に良い循環を生めるかもしれません。シネコン2つの全国的に見ても激戦区に出店することになるわけですが、だからこそここで共存可能な道を作ることができれば、理想的なモデルケースを提示できるとも思っています。
映画館にとってのユーザーファーストは何か
こうした不満、いろんなところで耳にします。
ユーザーファーストという概念は一時のバズワードから、当然心得ておくべき経営姿勢に変わりつつあります。選ぶのはユーザーであるという傾向はこれからもどんどん進んでいくでしょう。ユーザーファーストって実はなかなか解釈の難しいもの(話聞いてニーズ満たせばいいというものでもない)ですが、映画館にとってのユーザーファーストを模索していきたいと思います。
映画は時間の芸術で、お客様にも大量の時間を消費していただく商売ですね。時間という替えのきかないものと引き換えに提供するものは何なのかを突き詰めて考えることが改めて求められていると思います。
映画館作りを通して待ち作りの一端を担わせていただけることは、非常に嬉しく思っています。1人の映画人としても光栄なことです。
このブログでも随時情報をお伝えしていきますので、ご期待くださいませ。このブログは当然今まで通り続けますのでこちらもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
新しく何かを作るってのは、大変でプレッシャーもいっぱいだけど、やっぱりアドレナリン出ますね!
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アミューあつぎ映画.comシネマ
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