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『葡萄畑に帰ろう』政界時代のおかしな体験をコメディ映画に。ジョージア映画の重鎮監督インタビュー

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 ジョージア(グルジア)映画界の重鎮、エルダル・シェンゲラヤ監督の21年ぶりとなる最新作『葡萄畑に帰ろう』が12月15日より公開される。

 ジョージア映画は、セルゲイ・パラジャーノフ監督や、テンギズ・アブラゼ監督などソ連時代に世界的な巨匠を排出し独自の存在感を示してきたが、独立後は長い低迷期に入っていたが、近年若手監督の成長により再び脚光を浴びつつある。

 エルダル・シェンゲラヤ監督は、そんなジョージア映画界を代表する人物だ。ジョージア映画人同盟を務め、ジョージアがソ連から独立した時には政界に求められ、国会副議長を務めたこともある。弟のギオルギ・シェンゲラヤ監督とともに長きに渡りジョージア映画を支えてきた存在で、映画界のみならず一般市民からも厚く信頼されている。

エルダル・シェンゲラヤ監督(右)

『葡萄畑に帰ろう』はエルダル監督が政界を引退してから初めてメガホンを取った作品だ。その内容は自らの政治体験を色濃く反映したコメディ作品である。

「難民追い出し省」の大臣ギオルギは妻を早くに亡くし、息子と義理の姉と優雅な家で暮らしている。権力も金もほしいままにし順風満帆の人生だったが、嘘と権謀術数うずまく政治の世界でそれは長くは続かない。ギオルギは大臣職をクビになり、不正文書を処分しているところを使用人に目撃されてしまい窮地に陥る。そんな中、ドナラという素敵な女性と出会い、結婚するギオルギ。そして故郷で葡萄園を営む母を訪れ人生にとって大切なものは何かを彼は考え直す。

 架空の官公庁の「難民追い出し省」、ローラースケートを履いて働く省の職員、不気味にしゃべる大臣椅子などコミカルな描写の数々に政治家時代の体験を重ね合わせた、不条理でおかしな政治の世界を笑い飛ばす快作だ。

 エルダル監督に本作の魅力について話を聞いた。

 

政治の世界はおかしなことだらけ

――2006年に政界を引退されていますが、映画監督への復帰に10年以上かかっているのはなぜですか。

エルダル・シェンゲラヤ(以下エルダル):政治家時代もずっと映画を撮りたいと思っていましたけど、多忙でしたから叶いませんでした。政界を退いてからも色々アイデアを練ってはいたのですが、資金面でなかなか実現しない状態が続いたのです。今回の映画は、劇作家でもあるチェコのハヴェル大統領の戯曲を見つけて、脚本家と脚色してこのような形に仕立てました。

 
――政治家としての体験を反映させた作品とのことですが、本作はスラップスティックなコメディ作品で、ユーモアのある作品ですね。

エルダル:政治家時代、この映画で描かれるような状況をたくさん見てきたので、それをそのまま映画にしたのですよ。実際、政治の世界はこんなおかしなことばかり起きるのです。

 私はユーモアを大事にしています。ヘミングウェイの氷山の理論のように、見えているものはほんの一部でも実は大きな意味が込められている。そんな映画作りをいつも目指しています。観客には映画を観ている時は楽しんでほしい、しかしそれだけでなく観終わった後に、様々なことを考えることができる作品というのが私にとっての良い映画なのです。

 
――映画では椅子が意思を持ってしゃべったりするわけですが、監督は政治家だった頃、一度は支持した大統領の反対勢力に回ることもありました。あの意思を持った椅子に操られるように人は権力を手にすると変わってしまう。そういうことが込められているのかなと思いました。

エルダル:おっしゃる通りで、あの椅子は権力のシンボルです。どこにでもある椅子なのですが、まるで人間のようにしゃべって人をそそのかすのです。

 
――主人公は「難民追い出し省」という架空の省の大臣ですが、ここの職員は皆ローラースケートを履いていますよね。あれはどういう意図なんですか。

エルダル:あれは要するに、公務員たちは働いておらず遊んでばかりだということを表現しているのです。もちろん、私も実際にローラースケートを履いて仕事をしている職員を見たことはありませんが(笑)、満足に働いてくれない公務員たちをたくさん見てきましたよ。何とかして公務員たちを機能させようとしても、なかなか上手くいきませんでした。ジョージアはソ連から独立後、それまでの社会主義体制から脱却したのですが、あらゆるものが未整備な状況でしたからね。

 

ソ連時代と現在のジョージア映画

――監督はソ連時代からジョージア社会を見てこられていると思いますが、現在のジョージア社会をどのように評価していらっしゃるのでしょうか。

エルダル:ソ連時代は一党独裁で国民は指導者たちの奴隷のようでした。その頃に比べると、現在のジョージアは驚くほど大きな変化を遂げています。人々は自由になり、二大政党制が実現しています。

 
――それではジョージアの映画産業はどのように変化しましたか。

エルダル:逆説的な話ですが、ソ連時代は政府が映画産業に力を入れていたのでとても発展していて、実際に素晴らしい作品がたくさん作られていました。ただ、その理由はプロパガンダ映画の製作にありました。そんな中でも当時の現実を見つめた名作が数多くあったのも事実です。例えば、私はソ連時代に『奇人たち』という作品を作りましたが、政府はこの映画をおとぎ話だと解釈したのですが、私はあの映画に「隠れたメッセージ」を込めていたのです。

 
――ソ連から独立後、ジョージア映画が低迷したのは、国の支援が乏しくなったからということでしょうか。

エルダル:そうです。低迷の一番の原因は資金調達が困難になったことです。それは今でも続く問題ですが、ザザ・ウルシャゼ監督やギオルギ・オヴァシュヴィリ監督など新しい世代の監督たちが世界的な評価を受けるようになってきています。ソ連時代ほど資金は潤沢ではありませんが、ジョージア国立映画センターが若手監督の支援を重視してきた結果が表れてきていると思います。

 

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