ロシア国内で大議論を巻き起こした問題作『マチルダ 禁断の恋』が12月8日から公開中だ。
ロシア帝国最後の皇帝、ニコライ2世とその愛人だったバレリーナ、マチルダとの秘められた恋を描いたこの映画は、上映前からロシア国内でその内容を巡って大きな騒動が起きていた。
ロシア正教会の聖人であるニコライ2世のスキャンダラスな側面を取り上げたこの映画に、正教会の信者たちが「皇帝の侮辱」だとして猛反発。アレクセイ・ウチーチェリ監督の顧問弁護士の車が燃やされたり、公開予定の映画館に車で突っ込む者が現れるなど過激な反対運動が巻き起こった。
その騒動はロシア政界も巻き込み、反対運動を支持する政治家も現れた。一方、興行成績は好調で210万人以上の動員を記録し大ヒットとなっている。(騒動についての詳細はこちらの記事を参照してほしい→「ロシアのラストエンペラーを描く問題作「マチルダ 禁断の恋」 上映妨害が各地で相次いだ理由とは?)
映画の見所は、なんといっても豪華なセットと本格的なバレエ・ダンスが彩る絢爛たる映像美だ。本物のエカテリーナ宮殿やボリショイ劇場などで撮影を敢行、世界三大バレエ団の1つであるマリインスキー・バレエが映画の共同製作者として名を連ねている。大人数のエキストラを動員し、制作した衣装は7000着にもなるという。
そんな本作の主人公マチルダを演じるのは、ポーランド出身のミハリナ・オルシャンスカ。チェコ映画『I, Olga Hepnarová』で実在した大量殺人犯を演じて注目を浴びた。日本では『ゆれる人魚』や『ヒトラーと戦った22日間』がといった出演作が公開されている。
来日中のミハリナ・オルシャンスカに本作での芝居について話を聞いた。
撮影期間中もロシア語講座にバレエレッスン
――本作の脚本を読んだ時の印象をお聞かせください。
ミハリナ・オルシャンスカ(以下ミハリナ):私の母語はポーランドですが、脚本はロシア語で書かれていたので読むのが大変でした(笑)。少しずつ翻訳してもらいながら読んだんですけど、本当に素晴らしいストーリーだと思いましたし、マチルダに恋に落ちたような気分になりました。オーディションに行った時は忘れられません。何しろ、主演女優が決まっていないのに撮影がすでに始まっていたので、撮影現場の豪華なセットの中でオーディションしましたから。
――実際の芝居もロシア語でしたから、大変だったのではないでしょうか。
ミハリナ:この映画の撮影以前にもチェコ映画に出演していたので、外国語で演技をするということに抵抗はありませんでした。撮影中もロシア語講座に通っていましたし。
――あなたは母国以外の映画に出演することが多いですね。
ミハリナ:最初のチェコ映画が映画祭で高く評価されたことで、私の女優としてのキャリアが始まりました。『マチルダ 禁断の恋』に関してはその映画の封切り前に出演が決まったので、幸運でしたがこういう風にいろんな国の作品に出演できることを私は楽しんでいます。旅行するのも、違う文化に接することも大好きなんです。
――チェコ映画の『I, Olga Hepnarová』に本作と、実在の人物を演じています。どんなことに気をつけていますか。
ミハリナ:実在の人物を演じることは、架空のキャラクターを演じることとは精神的に異なる仕事だと感じています。実在の人物を演じることは、女優としても一定の責任を感じますが、全く同じ人物になることは不可能です。私の場合は、監督や脚本家の作り上げたいキャラクターに集中するようにしています。ですから、マチルダの日記を撮影前には敢えて読まなかったんです。
――マチルダはバレエダンサーですが、バレエの経験がおありだったんですか。
ミハリナ:いいえ。バレエダンスも撮影期間に練習しました。何しろクランクイン後に私は参加することが決まりましたから。毎日撮影が終わってからバレエレッスンに通い日々を過ごしました。体力的にも大変でしたけど人生は全て冒険だと思っていますから、これも楽しみました。
――撮影しながら、バレエレッスンにロシア語講座まで受けていたんですね。それは相当タフな経験をしましたね。
ミハリナ:そうですね。でもロシア語講座は身体を動かす必要はないので楽ですよ。座っていられることは贅沢な時間でしたね(笑)。
マチルダは現代女性のロールモデルになれる
――マチルダの生き方について、あなたはどう思いましたか。
ミハリナ:彼女は自分が望んだ全てを得るのにふさわしい人だったと思います。当時の価値観では大胆すぎると思われたのかもしれませんが、私たちは時に願望に対して大胆であるべきだと思います。彼女は革命の時代を生き残り、パリでバレエ学校を開いたりもしています。その他、あらゆることを実現した女性ですが、そんな彼女の姿は現代の女性にとってロールモデルになると思います。
――今回の撮影で一番大変だったことはなんですか。
ミハリナ:ハードなスケジュール以外では、撮影が1年に及んだのでその間、家族と離れ離れになってしまったことです。数日間帰国できた時には、今の夫になる人にも出会ったので、すぐに離れ離れになってしまったのでなおさら辛かったですね。
――あなたは、役者の他の音楽や小説を書いていたりもしていたそうですが、今後や女優業だけに絞って活動されるのですか。
ミハリナ:そうした活動は私が19歳の頃までやっていたことです。私は女優として生きていくことを決めています。
――この映画はポーランドでも公開されたのですか。
ミハリナ:いいえ。ポーランドの国営テレビが放送権を買ったので劇場公開されていません。私は外国の映画に出演することが多いので、私の両親が私の映画を観られないことが多いんです。
ポーランドで配給される外国映画のほとんどがアメリカ映画ですから。その他の国の良質な芸術作品を観る機会はすごく少ないんです。小さい頃にワルシャワで映画祭があって母がよく連れて行ってくれました。私はそういうところでいろんな国の映画に親しんできました。そういう映画が私を形つくってくれたと思いますし、出演したいのもそういう映画なんです。
――では今後もインデペンデントなアート映画を中心に活動していくのですか。それともハリウッドを目指すのでしょうか・
ミハリナ:どちらかを選ぶなら欧州を中心にアート映画の世界で活動したいですね。そういう作品の方が自由にやれますし、クルーとも人間的な関係が築けます。大作になればなるほど大きなお金が動くのできっちりとやらなければいけませんし、インデペンデント映画ならばある程度のカオスも許容されるところがありますから。
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