ハフポストに現在公開中のドキュメンタリー映画『行き止まりの世界に生まれて』の監督インタビュー記事を書きました。
「男らしさ」のお仕着せに苦しむ「全米一みじめな街」の若者たち。トキシック・マスキュリニティに潜む闇 | ハフポスト
アメリカ、ラストベルトの街で育ち、貧困と暴力が身近な環境で育った3人のスケーターたちの苦しみと絶望、それでも前向きな人生をつかもうとする情熱を描いた作品です。ラストベルトはネガティブなイメージを持たれることも多いですが、ネガティブな先入観もポジティブなイメージもなく、本当にフラットに見つめた作品だと思います。監督自身も同じ街出身なので、自分の身の回りにカメラを向けた感覚がでています。都市からやってきた記者の視点ではない、本当のラストベルトが見られる作品だと思います。
アカデミー長編ドキュメンタリー賞とエミー賞同時にノミネートを果たした、大変にエモーショナルな作品です。90年代の傑作ドキュメンタリー映画『フープ・ドリームス』を知っている方には、ピンとくる作品なのではないかなと思います。エグゼクティブ・プロデューサーのスティーヴ・ジェイムスが『フープ・ドリームス』の監督なんですよね。
監督は、みずからもスケーターであるビン・リュー監督。監督自身も作品の重要な登場人物として登場しています。(真ん中の青年です)
人は暴力の連鎖をいかにして止めることができるのか、という点で重要なことを描いている作品だと思います。僕はこの記事を、マスキュリニティの問題を中心として組み立てています。有害な男性性の中でも最たるものが暴力による支配だと思うからです。暴力を振るう父親の元で育った三人の若者がいかにそれと向き合い、克服しようとするのか。それをスケートボードでつながった仲間たちとの絆の中に見出しくいくのです。
「いかにスケートボーダーたちがマスキュリニティや虐待と折り合いをつけてきたかを探求するというテーマが、より差し迫ったものになった」という監督の言葉に導かれるようにこのテーマを中心にしようと思ったのですが、男性性の苦しみというのは僕にとっての個人的なテーマであったのかもしれません。
「自分の暴力性を自覚すること。それが大切」と監督は言っていました。だれもが加害性は持っている、その言葉は、マスキュリニティを超えて加害性は存在するという意味でもあるのだと思います。マスキュリニティの問題から、最後はそれを超える問題に着地できたのかな。
そのほか、本作は「カメラの持つ効能」についても考えることができる作品だと思います。「この撮影はセラピーみたいなもの」と登場人物の一人が言うのですが、撮影によって心の傷を開陳した結果、3人はそれぞれが自分の問題を克服していきます。カメラは誤った使い方をすると危険なものですが、その力が良い方向に作用した作品であるようにも思えました。
とにかく、これは今年最高の青春映画の一本だと思います。多くの人に観てほしい作品です。
ビン監督の短編映画がVimeoで無料で公開されています。こちらもおすすめです。