シネマズPLUSで、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』と『千と千尋の神隠し』の興行の比較をしてみました。
「鬼滅」と「千と千尋」、2つの時代の「メディアと映画館の変化」を探る | cinemas PLUS
鬼滅の興行収入が千と千尋に近づくにつれ、いろんな意見がツイッターなどで見られるようになったので、当時のメディア状況と宣伝方針の違い、そして映画館の状況変化を比べてみることにしました。
『千と千尋』はSNSもない時代にあれだけ売れたのはすごい、という意見がSNS上で結構あったんですね。それは面白い発想だなと。ほんの数年前まではむしろSNSから国民的ヒットが生まれるわけないと言われてたぐらいなんですが、今やその感覚は逆転していて、SNS抜きにヒットはあり得ないという感覚が生まれてるんですね。
では、『千と千尋』は実際にSNSのない時代、どうやってあの大ヒットを生み出したのかを紐解いてみようと思い、この記事を書きました。
まずは、宣伝戦略を調べ、次に映画館のスクリーン数の増減を調べてみました。調べる前は、ジブリ作品は基本的にマスメディアパワーによる物量作戦かなと思っていたんですが、意外と地道に口コミを作る努力を欠かしていないことがわかりました。
最初の記事構成案は、マスメディアパワーの『千と千尋』VS口コミソーシャルパワーの『鬼滅』みたいなイメージだったんですが、そんな単純な図式には当てはまらなかったです。とても勉強になりました。
以下、メモです。
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Thesis
千と千尋の神隠しと鬼滅の刃、それぞれの時代のヒットの流れを追う。
どっちのほうがすごいということはあまり意味がないこと。
↓
ヒットの条件は20年前とは全くかわったということ
問い
数年前までSNSで国民的ヒットなんて出せないとおもわれていたが、時代は変わったのか。
少なくない人が千と千尋はSNSもないのにあれだけ売れてすごいという意見を表明しており興味深い変化が見られる
Point3つ
・千と千尋、鬼滅の刃、それぞれの時代の情報環境を整理する
テレビ、ネット、マスか口コミか
・映画館の環境の変化
シネコンとスクリーン数、単価
特典配布の是非
鬼滅の刃の異様な上映回数とスクリーン数、、、千と千尋はどうだった?(これリサーチ可能か)
・宣伝戦略はどう違う
製作委員会のあり方・・・チーム鈴木の宣伝戦略、たいして鬼滅の刃は?。。。コラボが多いがあれがむしろ各企業があやかってライセンス料を払っていると思われる
Intro
鬼滅の刃は千と千尋を超えるのか。
コロナ次第では今年中に超える
それに伴い、両作のファンから様々な声が聞こえてきます。
千と千尋は原作もないし、SNSのない時代にあれだけ売れるのはすごいという声。
鬼滅の刃は、テレビなどのマスメディアの大量宣伝を仕掛けていないのに、ブームとなったのがすごいであるとか。
両者の情報環境や映画館の違いを比較してみましょう。
あらかじめ、本記事では作品の良しあしなどについては語りません。それは人それぞれに評価軸があり、一概に決められることではないので。
Body1 ネットのなかった時代の情報の流れとは
千と千尋の宣伝量はすさまじかった。。。。もののけ姫の倍の予算を投入
日本興収1位「千と千尋ー」分析者の一言で思わず火 – シネマ : 日刊スポーツ
4年後には「千と千尋-」で、興収308億円の記録を作った。「いって20億~30億円」と分析する者もいたが、軽く覆した。鈴木氏は「カチンときて、火がついた」そうで、公開スクリーン数を「もののけ姫」の倍にし、倍の宣伝費をかけた。
製作委員会システムの強みを最大限に活かした
スタジオジブリの歴史 – スタジオジブリ|STUDIO GHIBLI
ジブリの宣伝戦略
ただ確かに、このころ「チーム鈴木」という言葉が生まれたように、日本テレビやディズニー、三菱商事、電通、博報堂といった出資会社と、ローソン、読売新聞、第一興商といった協賛会社との連携が非常にうまく行って、興行に大きく寄与したことは事実です。
徳間書店、日本テレビ放送網、電通、東北新社、三菱商事 [千と千尋の神隠し : スタッフ (ghibli-freak.net)]
ローソンの「千と千尋の神隠し」関連販売が好調 | 日経クロステック(xTECH)
映画館の窓口を超える枚数がローソンで売れた。独自にフィギュアつき前売り券などを販売
鈴木敏夫、コンビニはメディアだと気づいた。。「昔コンビニ、今LINE」メディアの勢いを見抜く――鈴木敏夫が語る「これからのプロデューサー論」 | 文春オンライン
ローソンが映画前売り券を取り扱いはじめたのは1981年7月から ローソンの歴史 – 沿革|ローソン公式サイト
ローソンだけで32万枚は相当な数字。。。鬼滅の刃はそこまで売れていないのでは。
ちなみに鬼滅の刃の前売りはどれだけ売れたのか
ムビチケ前売券(オンライン)月間販売枚数の最高記録を2ヶ月連続で更新映画興行の活性化により、ムビチケ当日券も好調で合計20万枚突破!|株式会社KADOKAWAのプレスリリース
「ONE PIECE」前売り販売枚数が東映史上最高記録樹立 : 映画ニュース – 映画.com
『妖怪ウォッチ』前売り、東宝史上最高売り上げを記録!劇場版第2弾も決定|シネマトゥデイ・・・72万枚
鬼滅の刃のブームを作ったのは深夜アニメの質で、マスの反応は後からついてきた。・・・これを数字でどう立証するか
鬼滅ブーム、今は「第2波」 鬼滅ツイートは昨年12月の「18巻」発売が頂点:イザ!
『鬼滅の刃(きめつのやいば)』はなぜ人気?『ONE PIECE(ワンピース)』を超える異例の売上、大ヒットの理由に迫る|ferret
昨年末からテレビでタレントがハマっていると公言する人が現れ始めていた。だが、ゴールデンタイムで特集されるようなことは少なくても年末になってから。
紅白でLISAが登場
千と千尋の時代はマスメディアを駆使したトップダウン型、鬼滅の刃の時代は口コミから拡散していくボトムアップ型と言っていい
Body2 映画館の変化
2001年と2020年では、スクリーン数は1000ほど違う
全国のスクリーン数は2019年12月末時点で3,583 過去興行収入上位作品 一般社団法人日本映画製作者連盟
2001年の2585スクリーン 一般社団法人コミュニティシネマセンター
2001年は2,585(シネコンは1,259)
価格帯の変化で客単価が押しあがっている。
2020年は一般1900年、シニア1200円、、、2001年は一般1800円、シニア1000円
過去興行収入上位作品 一般社団法人日本映画製作者連盟 2001年は平均1,226円、2019年は1,340円
鬼滅の刃の異様な上映回数をどう考える?
千と千尋はどれくらい一日に上映していたのか?・・・調べが必要。。。興行年鑑でいけるか、、他当時のキネマ旬報などにあたってみる
生宮崎駿はこうして拝んだー「千と千尋の神隠し」舞台挨拶in 日比谷みゆき座ルポ – 虚馬アーカイブス
最初の上映が9時10分。。。1スクリーン5~7回というとこか
千と千尋、初日の動員数は?
千と千尋、初週 [国内映画ランキング(2001年7月21日~2001年7月22日) – 映画.com
徹夜組が700人、銀座エリアにはいたらしい。立ち見客もいた時代だ。 「千と千尋」、大爆発! 日本記録更新なるか? : 映画ニュース – 映画.com
2001年は、箱が大きかった・・・日比谷映画648席、みゆき座756席、スカラ座656席。。。さらに立ち見を入れていたはず
その行列ができたこと自体がさらにニュースとなり、テレビに取り上げられたりしていたはず。
Body3宣伝戦略はどう違うか
それぞれの時代に合った宣伝。。。ジブリは宣伝に力を入れる会社であると公式にも書いてある。
かなりの物量を製作委員会各社の連携で大量に宣伝している。
たとえば、ずっとジブリを応援してくれている日本テレビの映画事業部。そこには奥田誠治さんをはじめ、映画宣伝の仕事に携わるメンバーが十数人います。バラエティーやワイドショーなどの番組スタッフを合わせると、ざっと100人がジブリ映画の宣伝に関わることになる。さらに、日本テレビには系列局が全国に約30あります。制作から営業まで含めて各局100人社員がいるとすると、合わせて3000人。 同じように、製作委員会の電通、博報堂、ディズニー、三菱商事にも、宣伝に関わる人が100人単位でいる。さらに配給の東宝、宣伝の実務を担当するメイジャー、関連するプロダクション、新聞、出版、ラジオなどのメディア関係者も含めると、軽く1万人ぐらいが、1本の映画の宣伝に携わることになります。
「もののけ姫」の大ヒットを生んだ名プロデューサー、鈴木敏夫さんが初めて語った“ジブリ流宣伝論”
意外と泥臭いこともやっていたジブリの宣伝。
―それ以外の地方での展開についても教えてください。
現地に行ってキャンペーンって何をやるの、というと、一つはそれぞれの地方にメディアがあるでしょう。テレビや新聞、雑誌などの取材を受ける。テレビは、例えばスタジオジブリは日本テレビさんがだいたい製作委員会に入っていたから、日本テレビのネット系列局の人が頑張ってくれたわけです。
あと、その地方で試写会をやるとすると、タイアップしてくれる企業がいて、応援してくれたんです。さらに、僕らが行ったことによって、テレビで試写会をやりますよ、という告知が流れるんです。僕らも宣伝のお金はそんなに無かったんだけど、試写会の告知はお金がかからないんですよ(笑)。それはありがたかったです。―テレビCMの代わりに無料で告知できる、というのは効果が強かったわけですね。
そしてもう一つ大事だったのは、映画館も回ったということです。映画館に行って、みんなで一緒に写真撮ったりしたわけです。
―それはシネマコンプレックス(シネコン)が広まる前の時代でしょうか。
そう。一つ一つ映画館には館主さんがいて、彼らが上映する作品を決めていた。それを回って、館主さんに挨拶するんです。そうするとそれぞれの映画館の人たちが、宣伝に前向きになってくれるわけですね。
―キャンペーンで地方の取材を受けて、地方のメディアの方のモチベーションをあげるだけでなく、上映される映画館の方のモチベーションも挙げていく、ということですね。
それはシネコン時代になってもそうで、たとえば映画館のスタッフの方全員と写真を撮ったりするんです。そうすると、あとでその事務所にその写真が飾られたりする。現地に行ってポスターやスタンディー(劇場に配布される宣伝用の立体物)にサインもしたりしましたね。
そしてもう一つ考えたことは、どこへ行くか、ということです。さっきお話した主要都市はみんなキャンペーンで行くけど、それ以外はあんまり誰も行こうとしなかったわけです。でも僕らはみんなが行かないところを選んだんです。ともすると、映画館のない街に行ったりもしました(笑)。
たとえば『紅の豚』の時もそうなんだけど、宮城県の気仙沼には映画館にはなかったけど行ったんです。皆さんが行ってないところの観客の掘り起こしは意味があると思ったんですね。
» 映画の地方宣伝から、これからの映画の話まで―スタジオジブリ鈴木敏夫さんインタビュー【キネプレ】
鬼滅の刃のボトムアップ型ともいえる広がり。
深夜アニメとして極めてオーソドックスなことしかしていない。少し規模は大きかったかも
先行上映、深夜に放送、配信
『鬼滅の刃』ブームの裏に、アニメ化と計算尽くしのファン獲得策:日経クロストレンド
しかし、メディアジャックのようなことは仕掛けていない。。。原作者も監督のほとんどメディアには登場しない。
コラボグッズが大量。。。。人気にあやかって自社の売り上げを伸ばしたい企業のほうからアプローチしていると思われ。。。。ダイドーの記録的ヒット。。。ライセンス料がもらえてなおかつ宣伝にもなっている。
最後のダメ押し的にフジテレビでの放送があった。
統計的にかなりの人間がアニメを視聴済み 映画館の今後の再活性化につながる「鬼滅の刃」の物語体験と感動の記憶 – GEM Standard
コンテンツ接触の図あり
↓
数年前までネットの口コミでこれだけの国民的ヒットが生まれるとは思われていなかった。
↓ ネット記事2012年くらいのビジネス記事を探してくる
潮目が変わったことが認識されたのは2016年。。。シンゴジラ・君の名は。この世界の片隅で、。。。。。モンスターヘッド
ヒットの条件はこんなに変わった。条件が違うので一概に比較はできない。どっちもすごいとしか言いようがない。
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メモ終わり。
鈴木敏夫さんがいろんなところで種明かしをしているので、ジブリの宣伝戦略についてはとても調べやすいです。本当に大量にインタビュー受けてるんだなと改めて思いました。
対して、鬼滅についてはあまりインタビューないんですよね。外崎監督も原作の吾峠呼世晴さんも。アニプレックスの高橋プロデューサーは少しあるぐらいで、割と情報に乏しいのが印象的です。ネット時代の最近の作品のほうが情報が少ないとは!
まあ、調べられる範囲で調べて見ると、鬼滅の宣伝は普段のアニプレックスの深夜アニメとそれほど大きな違いはないんですよね。規模は少し大きかったりするんですが、新しいことをやったという印象はないんです。本当に口コミで異常に広がって、その口コミを後押しするように、情報をしっかり公式から出していき、集英社の出版戦略とも足並みを揃えて話題が途切れないようにしていた、という感じですね。
ちなみに、『無限列車編』の配給は東宝とアニプレックスの共同ですが、映画館への営業は東宝、アニプレックスが宣伝という役割分担だったと文化通信ジャーナル12月号に書いてありました。
どちらのヒットもすごいことには変わりありませんが、20年でヒットの条件は大きく変わっています。その次代の潮流をどちらの作品も掴んでいたからこそのヒットだというのは共通してる部分だと思います。鬼滅の記録を次に破る作品はいつごろ現れるんでしょうか。その時はどんなヒットの条件になっているんでしょうね。
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