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フィルムメーカーの匂いのするジョブズ

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映画監督でよくインタビューなどで、「この映画のテーマやメッセージは何ですか?」という質問に、「いや、言葉で語れるくらいなら、最初から映画なんか撮らないですよ。言葉で語れない類の何かを伝えたくて撮ってるんです」みたいなカッコつけた答えがよくいます。大抵の場合は、自分の口ベタをごまかすために云ってる場合が多いんですが(笑)、でも僕ら映像の仕事に関わってる人間は、多かれ少なかれ言葉では表現しきれない領域があるとも思ってます。で、そうした言葉で捉えきれない領域を表現した人間はやはり映像作家として優れてると評価されるわけです。しかも、それがそれが多くの人にもわかりやすかったらもっとすごいです。

まあ、でもなかなかそんなレベルの作品を作れる人はいません。大抵は言葉で語れる範疇の作品に留まってしまうんです。

スティーブ・ジョブズが亡くなりました。僕はApple製品好きで、最初に手に入れたマシンはiMacで、ファイナルカットの登場にホントに個人で映画製作ができる時代がくるんだなあ、と実感したものです。それ以来メインPCはマックが続いてますし、iPhoneも今使ってる4が三台目、iPadAppleTVも持ってます。ほとんど、彼の関わった製品の世話にならない日はないです。彼はよく、テクノロジーをアートと融合させた、と云われてきました。そして、彼の作る製品は大抵、クリエイティブな仕事をする人間に愛されてます。僕の場合は、それが特にファイナルカットのような編集ソフトです。ピクサーを作った功績もありますし、映画界に対しても深い関わりのあったジョブズ。彼はどうしてAppleを追われた後、映画の仕事に関わることにしたんでしょうね。多分、映画は言葉を超えた何かを表現できる、と思ったのかなあ。

しかし、Apple復帰後のジョブズほど、上記の映像作家のカッコつけ台詞を体現した人はいないんじゃないかなあ。

ジョブズは、非常に言葉で聴衆を魅了するのに長けた人物としても知られてます。でも、彼の思い描いてたビジョンはそのプレゼンで語る言葉よりも彼の作る製品にこそ宿ってたように思うんです。まさに言葉で語れない領域を表現してるように僕には思えました。Apple製品に触れていると、なんというか「言葉で語れるくらいなら、最初からこんなマシン作らないよ。言葉で語れない何かを届けたいから、こうしてこだわりぬいた製品を作ってるんだ」と云われてるような気がしてきます。一流の映画監督は、そうした言葉で捉えることのできない領域に届く感性を持っていますが、ジョブズもまたそういう何かを持っていたように思います。

ジョブズは未来の具体的なビジョンについて語ってことはほとんどない、と云われますが、彼の未来のビジョンは言葉で語れない何かだったんじゃないかな。彼の雄弁なプレゼン以上に、彼の残した製品がそれを雄弁に物語っている。そんな風に感じています。

これからもジョブズの生んだ製品とソフトは多くのクリエイティブを支えていくでしょう。

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