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3Dは芸術になれる。映画レビュー「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」

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数年前から、3D映画が次の映画の主流になる、なると言われ続けていますが、いまだにその実感がなかなか湧かないんですよね。
映画はその技術の発達によって表現が多様に進化していきました。
サイレントから、トーキーへ、モノクロからカラーへ。それらの変化は確実に表現できる幅を増やしてきたし、観客にニーズにもあったんだと思います。
 
しかし、3Dになってどのように映像表現が進化するのか、いまいち僕の中ではっきりしません。奥行きがでるとどう物語に深みを与えれるのか、今までできなかった物語やアイデアを実行できるのかどうか。
 
結局、現状の3Dは、かつてに比べれば劇的に自然にはなったものの、単にビックリさせるだけだったりして、これが未来の映画の姿だとは思えんなあ、とか思ってたんですけど、まあ、3Dが採用される作品がそういうハリウッドのビックリさせる系の作品ばっかりだったんで、これから3Dを芸術として表現の幅を広げる手段として活用する作家が現れるのかなあ、どうなのかなあと思っておりましたところに巨匠ベンダースの新作が3Dで登場。
 
この「ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」はベンダースの野心的な奥行きが作る異空間演出の大実験の様相を呈しています。もちろん実験にとどまらず、きちんと作品の主題を深めるのに3Dをしっかり活用できていますね。迫力を増幅させる以外の目的で3Dこんな風に活用できる、というのを色々証明してくれました。
 
冒頭、誰もいないステージからピナ・バウシュが浮かび上がるように登場するシーンでは、手前にだれもいない観客席を入れ込んでいるます。この観客席が同じ一つの映像の中にあるにも関わらず、違う位相に存在しているように見えるんですね。3D独特の遠近感によって客席が浮かんでるように見えるんです。3Dの遠近法を意識的に使って、ステージと観客席に線引きをしているんですね。
 
舞台芸術というのは、生身の肉体を駆使して観客の「目の前」に異空間を作り出すものです。観客はステージのダンサーたちと物理的には同じ場所を共有しているのですが、そこには明確に空間の違いがある。現実の観客と異世界を作り出しているパフォーマーの世界。この違いと3Dの遠近法によって表現しています。
 
これは見事。これは3Dの奥行や遠近感は人の目には不自然に映ることをむしろ逆手にとってるわけですね。
 
 
そしてこのステージが非常に奥行のあるステージで、ステージの手前から奥まで、その奥まで伸びたステージ全体で展開するパフォーマンスをまるごと捉えるのにもやはり3Dの奥行が貢献しています。
 
 
映画では、ステージだけでなく、街中や森の中など、現実空間も登場し、そこでダンサーたちにパフォーマンスさせているんですが、ここでも3Dの特性である不自然さをうまく活用しています。ダンサーにきっちりステージ用の衣装を着せて街中などの現実空間で躍らせているんえすが、ここではダンサーたちがその遠近感によってポップアップしている感じなんですね。まるで現実空間なんだけど、そのパフォーマンスによってそこを異空間にしてしまっているように見えます。
 
あれはおそらく普通に2Dで撮影したら、それなりに風景に溶け込んでしまって、あそこまで異次元ぽい感じにはならないだろうと思います。
 
映写機とスクリーンを縦の構図で見せたのも絶妙でした。画面手前に映写機があり、奥のスクリーンに映像が映し出されるシーンがあるんですが、ここでも映写機のある空間とスクリーンが別の世界であることを遠近感を使って表現しています。
これも2Dなら、両方同じ世界の出来事に見えちゃうと思います。映画館という一つの空間で、映写が行われていて、それを映してるスクリーンがあります、というだけの感じ。
これが3Dだとスクリーンの中に別の世界がきちんと展開していて、観客がそれを見ている世界があって、現実のお客さんがそれを見ているみたいな感覚になりますね。
 
しかし、3Dの遠近感によって、時折奥行のあるステージが、上から見下ろすショットではミニチュアのように見える時がありました。これはさすがに違和感を感じたのですが、ベンダースはそれすら計算ずくでした。
たくさん椅子が大部屋に置かれたステージを俯瞰(上から見下ろす構図)があるんですが、一瞥してミニチュアみたい、という印象を持ちました。ところが次のカットが芝生の上にそのステージのミニチュアが置かれているカットで、ダンサーたちが当時のピナの演出を解説するという。
 
 
あと、部屋を3つに区切っているシーンもよかったですね。手前の部屋でパフォーマンスがされていて、真ん中に暗い部屋があり、その奥に明るい外が見えます。嫌でも外で何か起こりそうですよね。
 
 
 
3Dの奥行は、やはり人間の目には不自然であって、ベンダースはむしろその不自然さを効果的に活用してピナ・バウシュの舞踏の世界を再現しています。2Dはその映像世界が一つの世界を作っていますが、ベンダースは3Dは奥行の先にもう一つ世界を作れることを証明してみせました。
 
手前に人物がきたときに、激しく動くと残像感が出てしまう問題はまだありますけど、この作品は3Dが新たな芸術映画を作るための有力なチョイスになることを示しましたね。

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予告編

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