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大河ドラマ「べらぼう」第11話感想:富本豊前太夫の美声と吉原の涙 – 江戸の身分制度と文化の光影


大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」第11話「富本、仁義の馬面」は、江戸文化の遊郭以外の豊かさと、文化人に対する理不尽さ、両方が垣間見えるエピソードだった。

これまでのエピソードのレビューはこちら。

前回、蔦重の作った「青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)」は出来は良いが、高くて売れない。マニアには受けているけれど、一般庶民が手に取るようなものではないということか。この辺りは文化事業を商売にすることの難しさが出ている。良いものを作ったからとて売れるとは限らないものだ。

だが、今回のエピソードは蔦重の本作りの話ではない。吉原に人を集めるために祭を計画し、そこに富本節の太夫の名跡である富本豊前太夫の二代目、通称「馬面太夫」を呼ぼうという案が親父たちから出される。

蔦重もその美声に惚れ込みさっそく出演を談判するが、吉原が嫌いだと言われてしまう。

太夫の吉原嫌いは、かつて連れの役者と一緒に吉原に行った時に、役者だとバレて追い出されたことが原因だという。どうして役者が追い出されるのかというと、幕府が明確な線を引いて、浄瑠璃や歌舞伎役者を卑しい存在と位置づけていたからだ。りつ(安達祐実)が語るように、みんなが役者に憧れられてしまうと困るという幕府側の理由なのだが、芸能に生きる人々は、大衆を楽しませる存在で、人気もあるにもかかわらず、差別される身分であったのだ。いわゆる「河原者」というやつだ。ドラマの中では、「枠の外」という言い方をしていたが、穢多・非人と同じような扱いだったわけだ。

江戸時代は文化的に豊かな時代であったわけで、その豊かな文化を担ったのは彼らのような役者たちだ。にも関わらず、彼らは差別を受ける身分だったという、奇妙なねじれがある。そのねじれは、なんとなく現代にも引きずられているような気もする。

このねじれは、吉原で生きる女郎たちにも当てはまると言えるだろう。華やかな衣装に身を包み、当時の江戸のファッションリーダーのように言われながらも、彼女たちは吉原の大門の外に出ることは許されない。

そんな吉原の女たちは本物の芝居を見たことがない。蔦重はこれを逆手にとって太夫たちの詫びの印として、女郎を太夫に引き合わせることにする。

太夫の声を聞いた女郎たちは始めて見る芝居に感動して涙を流した。その気持ちを組んだ太夫は、吉原の祭に参加することを承諾する。

どちらも差別される人々であるがゆえの共鳴もあったのかもしれない。そう考えるとやるせないものがある。吉原の女郎たちは鳥のかごに囲われる存在なのだ。

囲われる存在と言えば、鳥山検校に身請けされた瀬川(小芝風花)も同様だ。吉原の外に出ることができても亭主に縛られる。吉原の中も外も不自由だ。

 
サムネイル画像は、鳥橋斎栄里が描いた富本豊前太夫。パブリックドメインとなっている。確かに馬っぽい顔だ。

鳥橋斎栄里 – ウィキメディア・コモンズはこのファイルをメトロポリタン美術館プロジェクトの一環として受贈しました。「画像ならびにデータ情報源に関するオープンアクセス方針」Image and Data Resources Open Access Policyをご参照ください。, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=58765632による

 
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登場人物
・蔦屋重三郎(横浜流星)
・駿河屋市右衛門(高橋克実)
・ふじ(飯島直子)
・次郎兵衛(中村 蒼)
・半次郎(六平直政)
・留四郎(水沢林太郎)
・唐丸(渡邉斗翔)
・花の井<五代目瀬川>(小芝風花)
・松葉屋半左衛門(正名僕蔵)
・いね(水野美紀)
・うつせみ(小野花梨)
・松の井(久保田紗友)
・とよしま(珠城りょう)
・りつ(安達祐実)
・扇屋宇右衛門(山路和弘)
・大文字屋市兵衛(伊藤淳史)
・志げ(山村紅葉)
・きく(かたせ梨乃)
・朝顔(愛希れいか)
・ちどり(中島瑠菜)
・志津山(東野絢香)

・須原屋市兵衛(里見浩太朗)
・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)
・鱗形屋長兵衛(三浦獠太)
・藤八(徳井 優)
・鶴屋喜右衛門(風間俊介)
・西村屋与八(西村まさ彦)
・小泉忠五郎(芹澤興人)
・平賀源内(安田 顕)
・小田新之助(井之脇 海)
・平秩東作(木村 了)
・鳥山検校(市原隼人)
・平沢常富<朋誠堂喜三二>(尾美としのり)
・勝川春章(前野朋哉)
・北尾重政(橋本 淳)
・礒田湖龍斎(鉄拳)
・富本豊前太夫(寛一郎)

・高岳(冨永 愛)
・徳川家治(眞島秀和)
・徳川家基(奥 智哉)
・知保の方(高梨 臨)
・一橋治済(生田斗真)
・田安賢丸(寺田 心)
・宝蓮院(花總まり)
・大崎(映美くらら)

・田沼意次(渡辺 謙)
・田沼意知(宮沢氷魚)
・長谷川平蔵宣以(中村隼人)
・三浦庄司(原田泰造)
・松本秀持(吉沢 悠)
・松平武元(石坂浩二)
・松平康福(相島一之)
・佐野政言(矢本悠馬)