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【べらぼう 第13話】「お江戸揺るがす座頭金」レビュー:旗本すら苦しめる経済的暴力の正体。鳥山検校(市原隼人)の怪演が光る


NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第13話「お江戸揺るがす座頭金」は、吉原をめぐる華やかな人間模様の裏に、経済的暴力の正体を深くえぐる回となった。今回、物語の中心に据えられたのは「座頭金」――盲目の検校が手掛ける高利貸しである。

これまでのエピソードのレビューはこちら。

冒頭、蔦屋重三郎(横浜流星)が朋誠堂喜三二(尾美としのり)と楽しげに語り合う吉原案内本の構想は、まさに夢と好奇心にあふれていて、本当に本作りの楽しさを伝える良いシーンだ。しかし、このエピソードはそんな朗らかなシーンは少ない。

その裏で、小田新之助(井之脇海)とうつせみ(小野花梨)の行方は依然として知れず、かつて世話になった鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)は偽版の罪で摘発され、商売の再開もままならない。重三郎の細見が飛ぶように売れる一方で、かつて世話になった人が没落していく。その現実に、蔦重は複雑な表情を見せる。

鱗形屋の偽版騒動の背景にあったのが、「座頭金」による借金である。盲目の検校たちが放つ利息地獄に、多くの商人や旗本たちが呑まれていた。須原屋(里見浩太朗)の語る「今この世で一番強いのは盲(めしい)かもしれん」という一言は、皮肉と真実を兼ね備えている。盲目の人々は弱者であるが、弱者であるがゆえに強い。そのような状況が生まれているわけだ。

鳥山検校(市原隼人)の存在感は圧倒的だ。彼が松葉屋の女郎たちへ反物を与える場面では慈悲を装うが、その裏には支配の論理が透けて見える。瀬川(小芝風花)に贈り物をしたかと思えば、「なぜ吉原の仲間といるときのような笑い声が出ないのだ」と詰め寄り、ついには閉じ込めてしまう。力と依存による歪んだ関係でもあり、嫉妬心があらわになっている。

この座頭金の闇に切り込もうとするのが、田沼意次(渡辺謙)である。西の丸の一件や、屋敷を売り払った森の告白を通じて、座頭金がいかに人を破滅させるかを将軍・徳川家治(眞島秀和)に突きつける田沼の姿には、政治家としての胆力が宿っている。「今、弱き者は誰か」を問う田沼の言葉は、現代に通じる問いでもある。

そして、蔦重のもとに届く「からまる」と背表紙に書かれた本――検校の罠である。これは瀬川の持ち物だ。瀬川を人質に取るかのように、検校は自らの想いと欲望をむき出しにする。瀬川が語る「吉原に売られてただひとつ、良かったことは蔦重に出会えたこと」という言葉は切実だ。検校がどれだけ財と力を持とうとも、瀬川の心は買えない。その悲哀が、検校の怒りと絶望をさらに深めていく。しかし、そんな想いが消えないことに瀬川もまた苦しんでいる。

「本は人を幸せにできるだろう」と語る平賀源内(安田顕)の言葉が、全編を貫くもう一つの主題である。誰かの不幸の上に成り立つ成功に蔦重は葛藤するが、だからこそ彼は人を幸せにする本を作りたいと願う。商いと倫理の狭間で揺れる蔦重の姿は、江戸という繁華の街に生きる者すべての苦悩の象徴とも言える。

次回、検校の屋敷を訪れた蔦重を待つのは果たして刃か、和解か。それともさらなる絶望か。物語はますます深く、闇の奥へと進みつつある。

べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 二

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登場人物
・蔦屋重三郎(横浜流星)
・駿河屋市右衛門(高橋克実)
・ふじ(飯島直子)
・次郎兵衛(中村 蒼)
・半次郎(六平直政)
・留四郎(水沢林太郎)
・唐丸(渡邉斗翔)
・花の井<五代目瀬川>(小芝風花)
・松葉屋半左衛門(正名僕蔵)
・いね(水野美紀)
・うつせみ(小野花梨)
・松の井(久保田紗友)
・とよしま(珠城りょう)
・りつ(安達祐実)
・扇屋宇右衛門(山路和弘)
・大文字屋市兵衛(伊藤淳史)
・志げ(山村紅葉)
・きく(かたせ梨乃)
・朝顔(愛希れいか)
・ちどり(中島瑠菜)
・志津山(東野絢香)

・須原屋市兵衛(里見浩太朗)
・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)
・鱗形屋長兵衛(三浦獠太)
・藤八(徳井 優)
・鶴屋喜右衛門(風間俊介)
・西村屋与八(西村まさ彦)
・小泉忠五郎(芹澤興人)
・平賀源内(安田 顕)
・小田新之助(井之脇 海)
・平秩東作(木村 了)
・鳥山検校(市原隼人)
・平沢常富<朋誠堂喜三二>(尾美としのり)
・勝川春章(前野朋哉)
・北尾重政(橋本 淳)
・礒田湖龍斎(鉄拳)
・富本豊前太夫(寛一郎)

・高岳(冨永 愛)
・徳川家治(眞島秀和)
・徳川家基(奥 智哉)
・知保の方(高梨 臨)
・一橋治済(生田斗真)
・田安賢丸(寺田 心)
・宝蓮院(花總まり)
・大崎(映美くらら)

・田沼意次(渡辺 謙)
・田沼意知(宮沢氷魚)
・長谷川平蔵宣以(中村隼人)
・三浦庄司(原田泰造)
・松本秀持(吉沢 悠)
・松平武元(石坂浩二)
・松平康福(相島一之)
・佐野政言(矢本悠馬)