米国の前大統領ドナルド・トランプ氏による関税強化の動きが、世界経済全体に不確実性をもたらすなか、世界最大のストリーミングプラットフォームであるネットフリックスがその影響をどの程度受けるのかが注目されている。ウォール街の著名アナリストであるローレント・ユン氏(バーンスタイン証券)は、この問題について繰り返し考察を重ねている。
ユン氏は3月中旬に発表したレポートの中で、「関税の影響、クリスマス後のNFLゲームによる解約率、視聴エンゲージメントの低下について、最近さまざまな議論が巻き起こっている」と指摘。特に、パスワード共有の有料化による成長が一巡したとの見方が投資家の間で広がり、同社株が数日にわたって下落したことにも言及した。
4月2日(トランプ氏が「解放の日」と呼んだ翌日)には、再び関税問題にフォーカスしたレポートを発表。「また関税の話かと思われるかもしれないが、今はなかなか“チル”できない状況だ」と述べ、関税に関する懸念が高まっていることを示唆した。
ユン氏は、ネットフリックスが既に欧州諸国(英国、フランス、スペインなど)において2019年以降「デジタルサービス税(DST)」を支払ってきた経験があることを指摘。しかし、欧州各国が米国の措置に対する報復関税を検討するなか、ネットフリックスや他のデジタルサービス企業に追加課税が課される可能性について警鐘を鳴らしている。
ただし、ユン氏はネットフリックスには3つの反論材料があるとし、以下の点を挙げた。
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ネットフリックスは欧州にとって有益である。
同社は欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域で数千人規模の雇用を創出し、数十億ドル規模のコンテンツ投資を行ってきた。また、DSTや現地再投資など、各国の規制にも準拠している。 -
関税が欧州市場に与える影響は、消費者の負担増につながる可能性がある。
ネットフリックスはドイツ、英国、フランス、イタリア、スペインの5大市場でSVOD(定額制動画配信)サービスのトップであり、アマゾンプライム・ビデオ、ディズニープラスがこれに続く。米国企業に課される関税が価格上昇を招くとすれば、その影響はむしろ欧州の視聴者に跳ね返る形となる。 -
現時点で欧州各国が報復関税を発表したわけではない。
そのため、「報復関税が具体化した時点で業績モデルを見直す」とユン氏は記している。
それでも同氏は、関税の議論が進むだけでも欧州市場における成長の重荷となり得ることを警戒。「仮に欧州での成長が鈍化した場合、短期的には1株当たり利益(EPS)への下押しリスクがある」と述べつつも、ネットフリックスの株価については目標を1,200ドルに据え置き、「依然として割高感はない」と強気の姿勢を示した。
ユン氏のモデルでは、EMEA地域の加入者数は2024年の1億100万人から2026年には1億2,000万人に増加し、年平均成長率は9%と予測している。しかし、関税導入によって料金が上昇した場合、解約率が増加し、加入者成長がさらに鈍化する可能性がある。また、月間平均収益(ARM)も伸び悩み、価格改定の柔軟性が失われる恐れがあるという。
具体的には、2026年までのARM成長率は年平均5%と想定しているが、仮に価格が維持されたままとなれば、逆に2.7%のマイナス成長になるとの試算を示した。
このように、加入者数とARMの両面での成長鈍化が起きた場合、2026年のEPS予想である36ドルに対し、最大10%の下方修正が必要になる可能性があると結論付けている。ただし、欧州SVOD市場におけるネットフリックスの支配的地位を踏まえれば、「実際の下押し幅は一桁台後半程度にとどまる」としており、深刻な影響には至らないとの見方も維持している。
なお、ネットフリックスは4月17日の米株式市場取引終了後に決算を発表する予定であり、関税に関する経営陣の発言にも注目が集まっている。
ソース:Can Netflix Chill or Will Trump Tariffs Cause 10 Percent Earnings Hit?