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翻訳小説部門で異例のノミネート、新人犯罪小説賞も受賞
河出書房新社は5月29日、王谷晶氏による小説『ババヤガの夜』の英訳版『The Night of Baba Yaga』が、英国推理作家協会(CWA)主催の英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳小説部門の最終候補作に選出されたと発表した。受賞作は7月3日(現地時間)に発表される予定である。
同作品は今月18日、イギリスのミステリー文学フェスティバル「CrimeFest」主催のSpecsavers Debut Crime Novel Award(スペクセイバーズ新人犯罪小説賞)も受賞しており、海外での評価が相次いでいる。
「シスター・バイオレンスアクション」として国内外で高評価
『ババヤガの夜』は、暴力団の会長令嬢の護衛を任された主人公が、裏社会の闇と少女の抱える秘密に迫っていく過程を描いた作品である。スリリングかつエモーショナルな「シスター・バイオレンスアクション」として位置づけられ、2020年の刊行当初から国内で大きな反響を呼んだ。日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門の候補にも選出されている。
英訳版は2024年9月にFaber & Faberから刊行され、サム・ベット氏が翻訳を手がけた。刊行後は「テレグラフ」紙のスリラー・オブ・ザ・イヤーに選出されたほか、「クライム・フィクション・ラバー」最優秀翻訳賞(編集者選)を受賞。さらにロサンゼルス・タイムズの「この夏読むべきミステリー5冊(2024年)」にも選ばれるなど、英語圏で高い評価を獲得している。
日本人女性作家2作品が同時ノミネートの快挙
世界最高峰のミステリー文学賞とされる英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳小説部門には、これまで横山秀夫『64』、東野圭吾『新参者』、伊坂幸太郎『マリアビートル』などがノミネートされてきた実績がある。
今回の最終候補作6作品には、王谷晶『ババヤガの夜』のほか、柚木麻子『BUTTER』も日本からノミネートされており、世界最高峰の舞台で日本人女性作家の快進撃が続いている状況である。
作者「入らないと思っていた」と驚きのコメント
英国推理作家協会賞最終候補ノミネートの報を受けて、王谷晶氏からコメントが到着した。
「この度は映えある賞の最終候補に選んでいただき、誠にありがとうございます。担当編集者と『ショートリストに入った際のコメントはどうしますか?』『いや、入らねえと思うのでいらんでしょう』というやりとりをしていたまさにその瞬間に情報が入ってきたので大変驚いております。とにかくこの本を英訳して下さった翻訳のサム・ベットさんに篤くお礼を申し上げます」
海外メディアから「女性エンパワメント」の物語として評価
英訳版は海外メディアからも注目を集めている。ロサンゼルス・タイムズは「斬新なレンズを通して、王谷は極めて洗練された手法で女性をエンパワメントする物語を紡ぎ出す――『テルマ&ルイーズ』対ヤクザを思い浮かべてほしい」と評している。
The Times紙は「怒り、ユーモア、スリル満載」、The Guardian紙は「激しい暴力と素晴らしい優しさが交互に訪れる」と評価。Crime Fiction Loverは「女性主導のリベンジ・スリラーの極致」と表現している。
一般読者からも「全ページにアクションがあふれている」「読んでいるうちに完全に映画として頭に浮かんできた」「マジで超おすすめ」といった熱い支持が寄せられている。
作品概要
『ババヤガの夜』は王谷晶氏が1981年東京都生まれの作家で、『完璧じゃない、あたしたち』『君の六月は凍る』『他人屋のゆうれい』などの著書がある。英訳版の翻訳者サム・ベット氏は1986年ボストン生まれで、三島由紀夫や太宰治、川上未映子の作品翻訳でも知られている。
河出文庫版は2023年5月に刊行され、税込定価748円で販売されている。英語版は2024年9月12日にFaber & Faberから刊行され、価格は£9.99となっている。
7月3日の受賞発表に向けて、世界最高峰のミステリー文学賞における日本人作家の動向に注目が集まっている。