北川景子主演『あなたを奪ったその日から』10話「誘拐が明るみに…母に迫る報い、そして償い」は、ついに誘拐の報いを受ける中越紘海のエピソードが展開した。因果応報と切り捨てるにはあまりにも辛い孤独。愛情があるがゆえに、娘を突き放し、実の家族の元に返そうとするその態度。そして、娘もまた、母を想い続けている。
ついに、9年間にわたる誘拐の真実が明かされた。中越美海(一色香澄)が自らを結城萌子であると知ってしまったことで、積み上げられてきた日常は音を立てて崩れ始める。母と娘、そして実の父親、それぞれの感情が激しく交錯し、物語は最終回を前に大きなうねりを見せた。
罪の告白と、束の間の逃避行
「お母さんは罪を犯しました」。母・中越紘海(北川景子)からのあまりにも重い告白に、美海は激しく動揺する。「最低だ」という娘からの言葉は、紘海の胸に深く突き刺さる。しかし、9年間育んできた母子の絆は、罪の意識よりも強かった。「逃げよう」という美海の言葉に促され、二人はあてのない夜の逃避行に走り出す。それは、罪から逃れるためであり、同時に失われゆく母娘の時間を取り戻すための必死の抵抗であった。
だが、その逃避行は長くは続かなかった。ついに実の父・結城旭(大森南朋)が追いつき、対峙の時が訪れる。「娘を返せ!」と叫ぶ結城に対し、紘海は最後の願いとして、美海にすべてを説明する時間として1時間だけを乞う。
慟哭の真実と、断腸の別れ
紘海の口から語られたのは、食品事故で我が子・灯を失った絶望と、結城への憎しみから萌子を誘拐したという驚愕の真相であった。しかし、美海は涙ながらに問う。「でも可愛かったと思ったから育ててくれたんでしょ」。憎しみから始まった関係であっても、そこには確かに愛情が存在したことを、美海は信じていた。
「悪い人でもいい、ずっとお母さんの子がいい」。その言葉は紘海の心を締め付けるが、彼女は結城から言われた「一片の未練も残らないようにしてくれ」という言葉を思い出し、非情な決断を下す。
「復讐のために育てた。愛情じゃない」。
自らの心を偽り、美海を突き放すことで、娘を実の父の元へ、新しい人生へと送り出そうとしたのだ。それは、紘海ができる唯一の「償い」の形だったのかもしれない。
結城から「報いを受けてください」と告げられ、深く頭を下げる紘海。走り去るタクシーを思わず追いかけてしまう姿は、母としての本能と、決して消えることのない愛情の深さを物語っていた。
新しい生活と、埋まらない空白
実の父と再会した美海、いや萌子。しかし、彼女に過去の記憶はない。「この人、だれ」という娘の言葉に、結城は凍りつく。「迎えに来るのが遅くなってごめんな」という心からの謝罪も、すぐには届かない。3歳の頃のまま時が止まった部屋、1ヶ月経っても埋まらない父娘の距離。萌子が結城に敬語を使い続ける様子は、失われた9年という時間の重さを残酷なまでに突きつける。
一方、この事件は周囲の人間にも大きな影響を及ぼしていた。結城梨々子(平 祐奈)は自らの罪を公になる覚悟を決め、ジャーナリストの東砂羽(仁村紗和)はその原稿が書けずにいる。それぞれの正義と葛藤が、物語にさらなる深みを与えている。
「子故の闇」と、最終回への問いかけ
心を失ったかのように虚ろな目で清掃の仕事を始めた紘海。元上司の雪子(原 日出子)は、そんな彼女に「子故の闇に迷う」という言葉をかける。子を思うがゆえに道を踏み外してしまう人間の業。それは、紘海の行動の根源にある、歪んでしまった愛情を的確に表していた。
紘海は、美海を突き放したことを激しく後悔し、刑務所の中からでも本当の想いを伝えたいと願う。そして、彼女は再び走り出す。その先で見たものは、結城家で幸せそうに振る舞う萌子の姿だった。しかし、それは紘海を告訴させないための、娘なりの健気な芝居なのかもしれない。
紘海の償いはどこへ向かうのか。萌子はどちらの家族と生きることを選ぶのか。そして、この物語が提示する「正しさ」とは一体何なのか。登場人物たちがそれぞれに抱える罪と愛情が、最終回でどのような着地点を迎えるのか、目が離せない。