テレビドラマ『あなたを奪ったその日から』最終話は、それぞれの登場人物が抱える葛藤と向き合い、未来へと歩み出す姿が描かれた。特に、美海/萌子(一色香澄)を巡る大人たちの愛憎が、最終的に娘たちの幸福を第一に考える形で収束した点は、物語の着地として評価できるだろう。
萌子が旭を父だと認め始める
萌子は紘海を逮捕させまいと、従順な娘を演じることを決意する。表向き、新しい環境に慣れてきたかに見える萌子の真意を測りかねる結城旭(大森南朋)と、抜け殻のようになった中越紘海(北川景子)の姿は、これまでの激しい展開が残した傷跡の深さを物語っていた。
玖村毅(阿部亮平)が梨々子(平祐奈)の流した嘘のセクハラ疑惑により会社を退職するなど、登場人物たちがそれぞれの形で苦しむ様子が描かれる中、小石川雪子(原日出子)は紘海に、いつか美海と再会した際に伝えられることがあるはずだと諭す。また、東砂羽(仁村紗和)が結城の食品偽装の記事を出すべきか葛藤する姿も印象的だった。望月耕輔(筒井道隆)が東の父・鷲尾 勇(水澤紳吾)が梨々子を守るために隠したことを娘のあなたが暴露していいのかと問う。東も鷲尾に言われた「立派なジャーナリストになるんだぞ」という言葉を思い出していた。
そんな中、萌子が初めての生理を迎え、梨々子がそっと生理用品を差し出す場面は、ぎこちないながらも家族としての繋がりが芽生え始めたことを示唆する。結城もまた、不器用ながらも愛情深い一面を見せ、萌子が心からの感謝を伝えるシーンは、視聴者に温かい感情を抱かせたに違いない。萌子は初めて「探してくれてありがとう」と心からのお礼を言えた。
「再会」と「和解」がもたらした新たな一歩
そんな中、12月10日、美海の誕生日に萌子は失踪する。父宛てに一通の手紙を残して。その手紙には、許せなかった(結城も紘海も)と書かれていた。いい子を演じていたのは紘海が逮捕されたくないから。でも、結城がいい人で良かったと思ったという。だからこそ、「もういちどお母さんに会いたい」と。会ってはいけないとわかっていても、母のことは心から消えないのだと綴られていた。萌子が向かったのは、長野にある姨捨だ。そこは、誕生日に行こうと紘海と約束していた場所だ。
その行動は、彼女が自らの意思で母親との繋がりを求めた行動であった。紘海と萌子の再会は、会ってはいけないと分かっていても、互いを深く愛する親子の絆が何よりも強いことを示していた。遠くからその姿を見つめる結城の眼差しは、複雑な感情を伴いつつも、娘の幸せを願う親としての愛情が感じられた。
姨捨のスイッチバック路線は、物語全体を象徴するメタファーとして機能したと言える。結城がスーパーの名前を「スイッチバック」にしたのは、娘への深い愛情ゆえであった。紘海が、灯の死について「灯は生きた。短い人生だったけど力いっぱい生きた。全てを受け入れている」と結城に語る。そのように想い、生きていくことが美海のためになる、自分のように誰かを恨んで道を外すような人になってほしくないからだと。そして、紘海は自ら自首すると告げる。
「親子」というテーマへの着地
最終的に、YUKIデリの真相がネットに流出し、記者会見で問われた結城が「被害者が次女を誘拐したのは事実ではない、2人は本物の親子だ」と語った展開は、物語の最期のドンデン返しとなった。
結城は紘海に「親としての責任を果たしてほしい」と告げたことにより、紘海は再び美海の母親として、美海は紘海の娘として生きる道を選んだ。結城との定期的な交流や、リビングに飾られた灯の写真など、決して順風満帆ではないものの、それぞれの登場人物が前向きに人生を歩む姿が描かれ、救いのある結末となった。
梨々子と玖村が会社にいられなくなったものの、それが彼らにとって新たな始まりとなったことも示唆されており、望月が独立して店を出すという展開も、登場人物たちの再生を感じさせた。
確かに、これまでの愛憎劇を考慮すると、選ばれた結末は「甘い」と感じる向きもあるかもしれない。しかし、複雑に絡み合った人間関係の中で、最終的に娘である美海/萌子の幸せが最優先されたことは、物語が「親子」という普遍的なテーマに真摯に向き合った証左とも言える。子どもをめぐる大人の愛憎劇から始まった物語が、娘の幸福を第一に考える形で決着したことは、視聴者に深い余韻を残した最終話であったと言える。
登場人物
中越紘海(北川景子)
東 砂羽(仁村紗和)
結城梨々子(平 祐奈)
玖村 毅(阿部亮平)(Snow Man)
鷲尾 勇(水澤紳吾)
野口初芽(小川李奈)
中越美海/結城萌子(一色香澄)
村杉結愛(田山由起)
鳥谷陸翔(内藤秀一郎)
小石川雪子(原 日出子)
木戸江身子(鶴田真由)
三浦勝昭(大浦龍宇一)
木戸雅人(中原丈雄)
望月耕輔(筒井道隆)
結城 旭(大森南朋)