リアルサウンドブックに、週刊東洋経済のアニメ業界特集について書きました。
「週刊東洋経済」アニメ特集で浮き彫りになった業界の”リアル”「製作」と「制作」の分断問題とは|Real Sound|リアルサウンド ブック
アニメ業界で大きな話題となっている一冊です。結構面白かったですし、わりと正確だと思います。確かに一部の数字の正確性に疑問の余地はありますが、全体像を把握するのにはおおいに役立つはずです。
外からアニメ業界を見てわかりにくいのは、製作と制作の違い。これについてクリアに説明して、業界のお金の流れる仕組みがどうなっているのかをきっちり説明しているのがいいですね。
なにより、一冊に雑誌でこれをやるのがいい。こういう時、パッケージングされている紙媒体は強いなと思いました。複雑かつ多岐にわたる構造をしているので、網羅的に取り上げないと全体を説明できないんですよね。ウェブだと、どうしても一個ずつの記事が細切れに流通するので、全体像を伝えにくい。
一般経済誌がアニメを大体的に取り上げる様になったのかと思うと感慨深いというか、他に成長市場がないということかなとも思うわけですが、ともかくアニメビジネスについて学ぶ時、おおいに助けになる一冊だと思います。
以下、原稿作成時のメモと構成案。
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Thesis
アニメ業界について? 網羅的に特集できる専門誌について?
Point3つ
総論、、、最新のアニメビジネスの概況がわかる。ネットには10年前の感覚で喋る人が、業界人あってもたくさんいる。
製作委員会について。。悪でもなければ悪くはないが、複雑さを産んでいる
制作会社。。。低賃金は本当か。今の制作費は?、改善策に挑む2つのスタジオを紹介
網羅することで見えてくることは何か。。。
Intro
アニメ業界は複雑だ
様々な議論が生まれている、業界は安泰なのか、危機なのか実際にわかりくい部分がある。
映画はメガヒット連発で、海外市場も伸び続ける。世界的なカルチャーとして認知されるようになった
一方、制作現場の疲弊、スタッフの労働環境や給与問題がしょっちゅう取りざたされ、業界存亡の危機と叫ぶツイートもしばしばみられる
はたから見ると好調なのかやばいのかわかりにくい。
この雑誌の特集はそれにアニメ業界の現在の状況に明快な輪郭を与えてくれる。なるほど、ここが問題で、ここが好調だと言われる部分なのかと。
Body1 総論
編集者も苦労しているよう。
かなりに力作。ほぼ正しい数字感覚が出てくる。
製作費の今、クリエイターの賃金状況など詳しい取材と信頼のおける統計データを基に詳しく解説している。
Body2 良くある古い話、誤解を解いている
製作委員会悪玉論、「製作委員会に還元された収益のみで黒字化するような作品は全体の3割程度だ」(P42)赤字は製作委員会の持ち出しなのだ。
現在の状態、Sランクのスタジオには1話6000万円の制作費がつくこともあり、放送開始前から投資回収できてしまう(P41)。ここのところ制作費が増加傾向になることもきちんと指摘。その上でそれでも低賃金の人が生まれる構造を指摘。
窓口ビジネスが美味しいという証言
製作委員会のビジネスフローと制作の関係のチャートもわかりやすい。
低賃金問題、、、今生じているのは、まさに二極化と育成環境の不整備からくる若手の育ちにくい差
現在のキープレイヤーをしっかりと抑えている。
製作委員会は村社会かもしれないが、時代ごとに構成会社はめまぐるしく変わっている面もあり、排他的すぎるかというと、そうではないのでは。
配信の現在についても言及、クランチロール擁するソニーの好調と対照的にNetflixの失敗を分析し、なぜ独占配信が上手くいかないのかを指摘。
「アニメビジネスの特徴は、アニメ単体のビジネスに終始しないことだ。アニメ化によって原作の本が売れることや、グッズなどの2次利用収入は見込める。その際に必要なのは多くの視聴者にアニメを見てもらい、話題になること」(P57)
結果、原作サイドがネトフリ離れを起こしていると
だが、ネトフリはこのまま終わりかどうかはわからない。「より幅広い視聴者が一緒に楽しめる長編アニメーション映画をバランスよく調達することに、現在は注力している」とコンテンツ調達の統括、山野裕史氏のコメントを紹介している。(P56)
映画会社、東宝が現在強さを発揮している理由にも言及、テレビも放送外収入を大きくしないといけない事情からアニメを強化する流れが加速していることにも触れている。
Body3課題も山積であることも同時に提示
需要過多とクオリティの求められる向上による人材不足
制作への還元問題
配信の次
声優業界問題。。。構造的に見えにくい、具体的な名前はなく、ふわっとしているが、見過ごせない、ここは何らかの業界機関や組合のような組織が一度、アンケート調査などを実施して実態を明らかにしたほうがいい。
Body4原作持つ出版社の儲けについて
P44には、IPバブルで利益を出しまくる出版社の特集がある
上場していない出版社が多いので、原作を持つ出版社がアニメバブルでどれだけ利益を出しているのか、わかりにくい
東洋経済が独自に利益推移のグラフを作成しているが、大手3社合計で2018年までが純利益100億円以下で推移していのが、2019年から急上昇しており、2021年には純利益600億円を超えているという、にわかに信じがたいグラフが載ってる
一番大きく伸びているのは、もちろん集英社
Body4 専門誌の実力
網羅して提示することの大きな意味
各論では、すぐに話が局所的になり、大局的な議論がしにくくなる。これはアニメ業界の課題を議論する上でたたき台となる情報を提示できている上に、
ほとんどウェブメディアでは不可能だ。
ひとつの雑誌とうパッケージで販売されているので、都合の良い部分だけをつまみ食いされにくいのもいい。(SNSでつまみ食いする奴はいるが)
どんな課題を解決するにせよ、現在の状況を正確に把握することから始めるしかない。この本はその大きな助けになるだろう。
まだアニメは伸ばせる
しかし伸ばすにも制作・クリエイターのお金の問題を解決する必要がある。そして、育成しないとこれ以上製作本数を増やすことができないほどに圧迫されている。
そこを製作と制作どちらも問題意識を高めないといけない。
それができれば、日本のアニメはまだ伸びしろがあることを示した特集だ。
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メモ終わり。全体的に良い特集だったと思います。アニメのビジネスについて知りたい人は是非手にとってみてください。