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大河ドラマ『べらぼう』14話|悪党にも情がある――粋に生きる吉原の人々


大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』14話「蔦重瀬川夫婦道中」を見て、このドラマはつくづくよく出来ているなと思った。悪党にも心があり、情があり、この世は無情だけど、楽しみもある。

これまでのエピソードのレビューはこちら。

幕府により高利貸しの検挙で、検校(市原隼人)と瀬川(小芝風花)、居合わせた蔦重(横浜流星)も捕まってしまうが、蔦重はすぐに釈放される。瀬川もほどなくして解放され、一旦松葉屋へと戻って来る。

蔦重は、自分の本屋を持つことを考え出す。ちょうど吉原に空き店舗もでたのでちょうどいい、そして瀬川と一緒に本屋を切り盛りすることを思い描きだす。

瀬川には沙汰はなかった。しかも、検校は瀬川の願いを汲んで離縁までした。彼は悪徳高利貸しで、彼のせいで多くの人が苦しんだのは確か。しかし、瀬川に対する愛情は本物で、自分の運命に巻き込ませまいと離縁して見せる。人としての情が悪人にもあるということの説得力がここにある。

このエピソードでは、吉原への差別的な待遇が描かれる。大文字屋(伊藤淳史)が神田に屋敷を買おうとしたら、奉行所からストップがかかる。曰く、吉原は「市民の外」であり、その外の人間が市中に屋敷を買うのはまかりならんと。

「市民の外」とは随分な言いようだ。ここには売られてやって来たもの、苦しい思いをしてきた者たちが懸命に生きているというのに。馬面太夫のような役者たちも被差別的な存在であったが、華やかであっても差別されるという、江戸の社会構造の奇妙な一側面がドラマを深めるために、的確に盛り込まれている。

検校へ恨みを持つ者も多い。その一人が前週のエピソードで売られてきた武家の娘だ。この娘は瀬川に八つ当たりして刃傷沙汰に及びもしたが、瀬川は農民が困窮して女が吉原に売られてくるのは、武家の重税のせいだろうと言い返す。苦しみが苦しみを生む、恨み言の連鎖はやめようというのは、その通りだ。

そこに行っても地獄だが、瀬川にとって蔦重の存在だけが光だった。そんな蔦重の重荷になるまいと吉原を出ていく瀬川。束の間の理想的な生活を心にどこかで一人たくましく生きていくことにしたようだ。

悲しい別れだが、人生は思うようにはいかない。何もかも手に入れることができないほろ苦さと、それでも前を向いて生きていく人々の力強さに胸打たれる回だった。

しかし、このドラマはセリフの応酬がいちいち粋だ。蔦重が店を持ちたいと忘八の親父連中に話す時は、なぜか川柳でやり取りするし、蔦重と瀬川は物語形式で会話し始めるし、吉原が地獄であっても粋を忘れない気風があることが丹念に描かれる。むしろ、ああやって粋に生きることが地獄の吉原を生き抜く秘訣なのかも。

べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 二

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『べらぼう』レビュー一覧
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登場人物
・蔦屋重三郎(横浜流星)
・駿河屋市右衛門(高橋克実)
・ふじ(飯島直子)
・次郎兵衛(中村 蒼)
・半次郎(六平直政)
・留四郎(水沢林太郎)
・唐丸(渡邉斗翔)
・花の井<五代目瀬川>(小芝風花)
・松葉屋半左衛門(正名僕蔵)
・いね(水野美紀)
・うつせみ(小野花梨)
・松の井(久保田紗友)
・とよしま(珠城りょう)
・りつ(安達祐実)
・扇屋宇右衛門(山路和弘)
・大文字屋市兵衛(伊藤淳史)
・志げ(山村紅葉)
・きく(かたせ梨乃)
・朝顔(愛希れいか)
・ちどり(中島瑠菜)
・志津山(東野絢香)

・須原屋市兵衛(里見浩太朗)
・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)
・鱗形屋長兵衛(三浦獠太)
・藤八(徳井 優)
・鶴屋喜右衛門(風間俊介)
・西村屋与八(西村まさ彦)
・小泉忠五郎(芹澤興人)
・平賀源内(安田 顕)
・小田新之助(井之脇 海)
・平秩東作(木村 了)
・鳥山検校(市原隼人)
・平沢常富<朋誠堂喜三二>(尾美としのり)
・勝川春章(前野朋哉)
・北尾重政(橋本 淳)
・礒田湖龍斎(鉄拳)
・富本豊前太夫(寛一郎)

・高岳(冨永 愛)
・徳川家治(眞島秀和)
・徳川家基(奥 智哉)
・知保の方(高梨 臨)
・一橋治済(生田斗真)
・田安賢丸(寺田 心)
・宝蓮院(花總まり)
・大崎(映美くらら)

・田沼意次(渡辺 謙)
・田沼意知(宮沢氷魚)
・長谷川平蔵宣以(中村隼人)
・三浦庄司(原田泰造)
・松本秀持(吉沢 悠)
・松平武元(石坂浩二)
・松平康福(相島一之)
・佐野政言(矢本悠馬)