NHKドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』第4話は、「さりげない助け合い」の連鎖が胸を打つ、優しさに満ちたエピソードであった。団地という舞台に流れる人と人との温かな交流、それを描く演出は今回も秀逸で、見る者の心をほぐしてくれる。これは本当に素晴らしい作品だ。
本話から登場したのは、土居志央梨演じる高麗なつき。芸術家として生きる彼女は、同期の成功に内心あせりを覚えつつも、「人と比べない」と自分に言い聞かせる。そんななつきを町内会のしがらみから救ったのは、宮沢氷魚演じる羽白司。少しスピリチュアルな物言いに戸惑いながらも、彼のさりげない優しさは印象深い。
なつきとさとこ(桜井ユキ)の初邂逅も、既視感を覚えるとともに感慨深い瞬間だ。朝ドラ『虎に翼』で“魔女5”の一員として並び立った2人の再共演は、なんだか同窓会のような雰囲気だ。公式サイトには二人の対談も掲載されている。ドラマを見終わったら是非読んでほしい。
「桜井ユキさんと土居志央梨さんの対談 前編」 – しあわせは食べて寝て待て – NHK
4/26の #土スタ ゲストは#桜井ユキ さん☕
ドラマ10 #しあわせは食べて寝て待て 特集!
薬膳料理に関心を持った方も多いのでは?4/22放送の4話からは「虎に翼」で同級生役だった #土居志央梨 さんが団地のご近所さんで登場します。
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— 土スタ (@nhk_dosta) April 22, 2025
2人は団地の“ご意見番”である美山鈴(加賀まりこ)から揚げたての天ぷらを振る舞われる。この団地には、料理が人と人を繋ぐという確かな空気がある。美山が副業として行っているオンラインの手作り服販売に、なつきの絵柄を使いたいという展開も、自然な流れで助け合いが広がっていくことを物語っていた。
一方、田畑智子演じる青葉乙女が語った「ネガティブ・ケイパビリティ(できない自分を受け入れる力)」という言葉は、病気と向き合うさとこに深く響く。社会が求める“生産性”という物差しの中で自分を見失いがちな中、「頑張れない自分」もまた自分の一部だと認めていいというメッセージは、現代の人々にとっても大きな救いとなるんじゃないだろうか。だれだって頑張れない瞬間はあるのだ。
美山となつきに触発され、また少ない収入をカバーするため、さとこは偶然見た映画『アパートの鍵貸します』にヒントを得て、空き部屋をレンタルスペースにする副業を始める。羽白と、彼が連れてきた友人・八つ頭仁志(西山潤)の協力を得て、さっそく最初の利用者が現れる。それが、団地に暮らす女子高生・目白弓(中山ひなの)だ。彼女は家庭や学校に居場所を見つけられず、静かに部屋を借りるという選択をする。
弓の繊細な心に気づいたさとこは、彼女の自転車を直してあげたり、ささやかな言葉を添えて気持ちをほぐしたりと、無理のない距離感で寄り添っていく。「ネガティブな言葉の後には“なーんて、嘘だけど”って付け加えればいい」という助言は、かつての自分を救った知恵でもある。そうして、弓を外へと連れ出すなつきとさとこ。なつきと弓が連れ立って歩く高円寺の通りのシーンはあったかい雰囲気に包まれていた素敵だ。高円寺とか下北沢の狭い路上のおしゃれなお店たちは、高校生にとっては新鮮だ。僕も中学の時からシモキタによく行っていたから、よくわかる。
しかし、さとこはふと気づく。「やっぱり副業は無理かもしれない」と。疲れが抜けない自分を責める気持ちは消えない。だが、「死にたくなるほど頑張っていた頃」とは違い、今は「薬膳のごはんがある」。そう気づいたさとこが最後に見せた、わずかな笑顔に、この物語の核心があった。助け合いの輪は、決して声高ではなく、ただ静かに、確かに、彼女たちの隣にある――。
何事も事々しく起こらない。でも、確かに人間の営みがある。非常に優秀なドラマだと思う。これぞ「日常系」である。