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【比較検証】日曜劇場『キャスター』第3話とSTAP細胞事件──ドラマと現実の決定的な違いとは?


4月27日放送の日曜劇場『キャスター』は、STAP細胞事件を題材にしたストーリーを展開した。STAP細胞ならぬiL細胞という万能細胞を発見したのが、若い女性研究者であるという点も類似し、関係者が自殺未遂をするという展開にも現実との類似を感じさせる。

しかし、結末は大きく異なっている。そもそも、STAP細胞事件自体、すでにかなり前の話題なのできちんと覚えていない人も多いかもしれない。そこで、ドラマの展開と照らし合わる形でSTAP細胞事件を振り返ってみた。

『キャスター』3話のレビューはこちら。

1. 発表までの道のりと世界的熱狂(〜2014年1月)

2014年1月29日、理化学研究所(理研)とハーバード大の合同チームが英『Nature』誌に2本の論文を掲載し、新たな万能細胞「STAP(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞」の作製に成功したと発表した。弱酸性溶液などの刺激だけで体細胞を初期化できるという簡便さは、iPS細胞を超える“夢の技術”と報じられた。主筆の小保方晴子研究ユニットリーダー(当時30歳)は、日本中のメディアから“リケジョの星”として脚光を浴び、ノーベル賞候補とまで称賛された。​

2. 疑義の噴出とデータ改ざん発覚(2014年2月〜7月)

しかし、発表直後から国内外で再現実験が試みられたが成功例は皆無だった。画像の切り貼りや実験手順の矛盾を指摘するネット掲示板「PubPeer」への書き込みが火種となり、理研は調査委員会を設置。4月、論文に「改ざん・捏造」があると公式認定した。最終的に共著者全員が同意し、7月2日に『Nature』は両論文を撤回した。

3. 発覚後の余波と関係者の悲劇(2014年8月〜2015年)

2014年8月5日、共同研究者で理研CDB副センター長の笹井芳樹氏が研究所内で自殺。騒動は科学不正の域を超え、社会問題へと発展した。小保方氏は監視カメラ下で再現実験を行ったが失敗に終わり、同年12月に理研を退職。以後、STAP細胞の存在は科学的に否定されたままである。

4. その後10年、小保方晴子とSTAP細胞の“現在”(2016〜2025)

  • 2016年 手記『あの日』を出版し、自らの無実と手続きの不備を主張。

  • 2024年4月 週刊誌が「有名企業勤務の科学者と極秘結婚」と報道。本人は沈黙を貫くが、公的な研究活動への復帰は確認されていない。​NEWSポストセブン

  • 理研の改革 CDBは2015年に再編され、研究データ管理と研究倫理教育を強化。日本学術振興会の外部監査でも改善が確認されている。

5. ドラマ『キャスター』第3話とSTAP細胞事件の相違点

  • 主役研究者
    実際の経緯:理研CDB・小保方晴子 STAP細胞を発表

    ドラマの展開:帝都大学・篠宮楓(のん演) “iL細胞”を発表

  • 不正指摘の経緯
    実際の経緯:科学者コミュニティによる再現実験失敗とオンライン指摘が発端

    ドラマの展開:キャスター進藤壮一らの取材もあり、同時にSNSで高名な教授が匿名アカウントで不正を暴露

  • 研究者の運命
    実際の経緯:笹井芳樹氏が自殺し、小保方氏は退職・公的研究から離脱

    ドラマの展開:四宮の共同研究者・栗林は自殺未遂、一命は取り留める

  • 細胞の真偽
    実際の経緯:STAP細胞は再現されず、存在否定が学術的コンセンサス

    ドラマの展開:“iL細胞”は四宮の論文ではデータ改ざんもあったが、最終的にはiL細胞の再現に成功する。不正を支持した小野寺教授とともに篠宮が、ivs細胞の発見者・高坂教授らとともにiL細胞を研究した成果

  • 社会的影響
    実際の経緯:研究費審査が厳格化され、日本の科学行政に改革を促した

    ドラマの展開:世論が研究倫理と報道の在り方を激論するが、制度改革の描写は限定的。新藤は日本の研究費の不足が根本原因だと指摘

こうして並べてみると、結構ディテールは違う。そして、やはり結末の異なり方がすごい。現実では小保方氏をはじめ、関係者はのみなみ研究の世界から退場することになったが、ドラマでは研究を続けて、実際に発見までする。

これはドラマでありフィクションなので、それでもかまわないが、なぜこのようにアレンジを加えたのだろう。しかも、結構放送時間終了間際に急速にそこまでいくような展開だった。

これはどういう意図なのだろう。この万能細胞そのものは追い求める価値があるもので、報道のスクラムで研究自体をできなくするのは間違いだという考えだろうか。

それは一理あるのだが、まさか不正を指示して部下を自殺未遂にまで追いやった小野寺教授まで許されることになるのは予想外と言えば予想外だ。

こういう風に科学者同士が強力しあう姿を素朴に理想として描こうということだったのか。このエピソードは、そこに至るまでの展開は結構よかった。この最後の最後に性急にiL細胞の発見まで描く必要があったのかどうか、よくわからないところだ。