叔母の孤独死を目の当たりにし、「ひとりで生きて、ひとりできちんと死にたい」と自身の終活へ向き合い始めた主人公・山口鳴海(綾瀬はるか)。しかし、第2話で示された通り、自らの死より先に「親の終活」という巨大な壁が立ちはだかる 。第3話「YO!熟年離婚は終活の敵!」では、その壁が「母親の熟年離婚」という、より具体的で厄介な問題として鳴海の日常を揺るがす。
突如浮上した「熟年離婚」と、暴かれる欺瞞
母・雅子(松坂慶子)の不穏な様子から、鳴海は「熟年離婚」の可能性を訝しむ。年下の同僚・那須田優弥(佐野勇斗)に「親の都合」と一蹴されながらも、会社以外のコミュニティを持たない父・和夫(國村隼)が一人で生き抜く姿を想像できず、それは自分も同じではないかと不安に駆られる。
鳴海が母の真意を探るべく足を踏み入れたのは、母が通うヒップホップ教室だった。ニューヨークとウェストコーストのスタイルの違いを生き生きと語る母の姿は、鳴海が「推し」について語る姿そのものだった。その姿を初めて目の当たりにした鳴海は、これまで自分がいかに母を見ていなかったか、そして自分の「ぬるい生活」が母の長年の我慢の上に成り立っていたのかもしれないという事実に気づかされる。
雅子の告白は、長年にわたる不満の蓄積を物語る。弟の喘息の看病を顧みなかったこと、叔母から嫌味を言われても庇ってくれなかったこと。そして定年後も家事を一切せず、自分の介護まで自分にさせるつもりの夫。雅子は「何もしてくれない人のために生きるより、自分のために苦労する方がマシだ」と鳴海に告げる。それは、夫に養われているのだから我慢して当然という、社会の無言の圧力に対する、魂の叫びであった。
「自分のため」から「母のため」へ―鳴海の意識変革
当初、鳴海が両親の離婚を阻止しようとしたのは、「円満にこれまで通り」を維持したいという、自己保身に他ならなかった。その本心は、那須田によって「自分のためでしかない」「自分ファースト」だと容赦なく看破される。他者の問題を自分事として捉え始めた矢先に、自らの自己中心性を突きつけられた鳴海は、本当の意味で「母のため」に何ができるかを考え始める。
ここで那須田が提示するのが、「父の終活」を促すという奇策である。彼は、鳴海の実家を訪れ、熟年離婚した男性が生活能力の欠如から孤独死に至った事例を挙げて和夫を巧みに煽る。そして、「生活的自立は経済的自立よりやりやすい」「家庭を会社として経営する仕事が残っている」と、和夫のプライドを保ちつつ、家事や生活への主体的な関与を促すのであった。これは、経済的自立が困難な女性がいる一方で、生活的に自立できない男性がいるという、社会の歪な構造を的確に捉えたアプローチである。
「家族のリフォーム」へ向けた奇妙な対峙
しかし、鳴海のこの介入は、雅子の逆鱗に触れる。「私が我慢するのが当たり前だと思っている」と、夫だけでなく娘にまで向けられた怒りは根深い。万策尽きたかと思われたその時、鳴海は理屈で説得することをやめる。母が情熱を注ぐヒップホップのスタイルに身を包み、母が本当に言えずにいる心の叫びを引き出すため、自らもラップで対峙することを決意するのである。
衝撃的な母と娘のバトルで終わった第3回😱😱😱
オフショットでもノリノリの #綾瀬はるか さんと #松坂慶子 さん。母と娘のラップバトルはぜひ本編をご覧ください🎤
📺第3回「YO!熟年離婚は終活の敵!」配信中ですhttps://t.co/l4QvH8WMXJ pic.twitter.com/KeZD6V3sj4— NHKドラマ (@nhk_dramas) July 12, 2025
第3話は、「熟年離婚」という現代的なテーマを通して、「家族が看取るのが当たり前」という価値観の崩壊を鋭く描き出した 。そして、ただ崩壊を待つのではなく、「多少ポンコツでも家族はリフォームして使った方が賢い」という鳴海の言葉通り、関係性を更新し、再構築していく「家族のリフォーム」という新たな可能性を提示した。鳴海が自分本位な考えから脱却し、母という一人の人間の人生と真剣に向き合おうとする姿は、彼女の「終活」が新たなステージに進んだことを示している。滑稽でさえあるヒップホップでの対峙は、深刻な家族問題における、新たなコミュニケーションの形となり得るのかもしれない。
登場人物
山口鳴海(綾瀬はるか)
那須田優弥(佐野勇斗)
山口光子(山口紗弥加)
山口聡(小関裕太)
山口まゆ(恒松祐里)
川上健太郎(満島真之介)
山口和夫(國村隼)
山口雅子(松坂慶子)