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映画レビュー「アウトレイジ ビヨンド」

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公開から大分経ってしまい、今さらな感じもしますが、レビューを書いておきます。メモだけ残っているのも気持ち悪いというのもあり。とはいえ数ヶ月前に鑑賞しているので細部までしっかり思い出しながら書けるかは未知数。やはりレビューも生モノという面もありますし。

アウトレイジ ビヨンド [Blu-ray]

言葉の暴力は銃より怖い


前作は北野作品の中でも、個人的には最低ランクの作品だった。とにかく描かれる暴力が下品というか、「見せる」ための暴力で、それはそれで観客へのサービスと云えなくもないんですが、北野作品の暴力には常に「空しさ」が伴い、その描写はヒドくあっさりしていた。
今回の「アウトレイジ ビヨンド」はその点、暴力描写がかつての北野映画のようなあっさりとした感覚が甦っていました。拳銃による暴力が中心になりますが、銃撃においてあっさりと皆死んでいく。

しかし、ソナチネなどのかつての北野映画とも明らかに違っていて、風景の美しさなどは微塵も描かれません。無為な遊びにふける大人たちもなく、その代わりにあるのは言葉と策略による暴力。

特に小日向文世演じる刑事、片岡の仕掛けは郡を抜いて残酷。というよりこの映画の物語を作り上げるのか片岡であって、その他のキャラは盤上の駒のようなものに過ぎない。それも実質片岡1人が操作可能な駒という風情で。

と同時にユニークなのは、本来主人公であるはずのビートたけし演じる大友の存在感が前編に渡って希薄なところ。
彼の復讐の物語よりも、加藤(三浦友和)のついた嘘がいかにして崩れていくのかの方がスリリングだし、大阪の花菱会との駆け引きが物語の主軸を構成している。大友はその抗争の一兵隊でしかありません。

しかし、そんな彼が最後には超越的なポジションでヤクザの抗争を演出していた片岡を殺します。ただ主人公として帳尻合わせただけではない説得力がある。

実際に片岡が自分の手駒として最も動かしにくい存在は大友であったと思います。大学の先輩・後輩で旧知の間柄であるというのもあるかもしれませんが、大友は片岡という人間について一番良く知る人物。それゆえ彼の手のひらで踊らされる事が危険であることも良く理解しているのでしょう。彼は片岡の仕掛けたゲームのプレイヤーになることに人一倍消極的です。

そんな風なこともあり、大友の存在感が主人公であるにも関わらず奇妙なほどに希薄です。
しかし、大友だけは他の登場人物たちとは違い、片岡が焚き付けていることをよくわかっています。みんな自発的な意志と判断で動いているつもりでも、実際には片岡におどらされていることに気づいていない。

盤上の駒にそれを操る人を殺せるはずがない。片岡はほとんど無敵というか、作品の中の神に近い存在に見えます。そんな片岡を大友が殺すことができたのは、ひとえに彼がそのゲームに乗ろうとしないからでしょう(実際には一度乗っかり、途中でリアイアしているのですが)。

私利私欲で言葉を操り、人を煽動する存在とは真に恐ろしいものですね。言葉の暴力は「クソ」や「殺すぞ」という風な汚い言葉とは限りません。この映画の片岡で云えば、「義理」や「けじめ」というような(ヤクザの世界では)キレイな言葉としても表現されます。

現実世界でも「愛」とか「希望」とか「頑張ろう」というような形で、暴力が振るわれていたりするのを見ることもあります。言葉の暴力はなかなかにその本質を掴みづらく、踊らされている間はその問題点をなかなか掴めない。そうして言葉の暴力に踊らされる人は死ぬまでピエロのように使われ続けるわけです。なんとも残酷な話であります。

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