「パリ、ただよう花」レビュー、言葉は嘘をつき身体が本音を語る

hotaka-sugimoto 2014年1月2日

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中国のインディーズ映画界でジャ・ジャンクーと並ぶ世界的な名監督ロウ・イエの最新作。天安門事件を題材にした「天安門、恋人たち」を製作したことを理由に5年間、中国での撮影を禁止されていた監督の最新作。ゲリラ撮影の「スプリング・フィーバー」を除けばこれが復帰第一作となります。
恋愛ドラマを主体としながら、その挑発的な描写で政治闘争に巻き込まれてしまう同監督ですが、彼の作品の本質はやはりその男女の愛の痛みを繊細なタッチで捉えるもの。今回は舞台がパリですが、恋愛の街を舞台にしてその手腕は遺憾なく発揮されています。

北京からパリに男を追いかけやってきたホア（中国語で花の意）。男に見捨てられた彼女は街で建設工マチューと出会い、激しく身体を求め合う。ホアは北京に恋人がいるし、マチューはルワンダから逃げてきた難民の女性と結婚している。しかしそのことはお互い秘密にしあい情事を重ね続ける。粗野なマチューは嫉妬深く、視野も狭い。しかし自分の世界にいない人間だからこそホアはマチューに惹かれる。いい加減な男マチューにそこまで惹かれる理由は観客には示されないが、手持ちカメラで彼女とともに街を放浪しているうちに彼女の不安が伝染してくる。なので誰かと肌を重ねることの安心感が大変によく伝わる。2人とも言葉は本音を語るためにあるのではなく、隠すためにある。代わりに本音を感じられるのは身体を通じて。労働者と知的階級で住む世界も人種も違う。元々言葉でわかり合うのが難しい2人だから余計に身体による語りが重要になる。発せられる言葉には無意識に差別意識もにじんでいる。ホアに近しいインテリは肉体労働者のマチューをバカにし、マチューの友人はアジア人を見下している。それもごく自然に。

ロウ・イエ監督の描くパリの街はオシャレで洗練された恋愛の街というイメージからはほど遠い。ヒリヒリ痛い寂しげな街。表層を剥がせばそれがリアルな姿なのかもしれない。