日曜劇場『御上先生』第7話「開幕」は、先週から引き続き、ヤングケアラーである椎葉(吉柳咲良)の問題に、御上(松坂桃李)と生徒たちがどう向き合うのかが描かれた。
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椎葉の退学を生徒たちは止められるのか
万引きをした椎葉春乃(吉柳咲良)を、引き取りに御上と是枝(吉岡里帆)が、ドラッグストアにやってくる。もうすぐ帰らないと認知症の祖父を見てくれているヘルパーが帰宅してしまうことに焦っている椎葉。是枝を家に向かわせて、御上は椎葉と話をする。椎葉は祖父の認知症の進行に伴い、PMSの症状が悪化し、精神的にも追い詰められていたという。そんな彼女が万引きしたのは生理用品。御上は彼女の状況を理解し、謝罪とともに大量の生理用品を購入する。「これだけあれば卒業まで足りる?」と語る彼の姿は、教師としてだけでなく、一人の人間としての温かさを感じさせた。当初は生徒を突き放すような態度が目につき、何を考えているのかわからない御上は、冷たい雰囲気もあったが、生徒たちの味方をする良き教師として、人間味が増してきた。
椎葉が退学になるかどうかを決める権限は学校にある。古代は溝端完(迫田孝也)にそれとなく彼女の退学をほのめかし、実際に溝端は椎葉を退学処分とする。溝端は、倭健命を名乗る怪人物からのFAXで門下良の塚田たちとの密会写真を送られており、学校内で立場が危うくなっている。古代の意向には逆らえない状態だ。椎葉は万引きだけでなくマッチングアプリのサクラのバイトもしていたらしい。それは詐欺罪に相当することを理由に溝端は彼女を退学にする。
教室で御上は、教室の黒板に「7/7」と書き、日本の相対的貧困率の高さを生徒たちに示す。G7先進国の中で最も貧困層が多い現実を突きつけ、椎葉の問題が個人の責任ではなく、社会構造の問題であることを生徒たちに考えさせる。隣徳学園は経済格差上位の人の集まりだが、そういう人たちにでさえ貧困は身近にあることを示すのが、椎葉の一件であり、椎葉は勇気を振り絞って自分の置かれた状況をクラスメイトの前で伝えることを選ぶ。両親が幼いころに死んだこと、祖父母に育てられたが、祖父の認知症で状況が一変したこと、サクラのバイトは家で祖父の面倒を見ながらでもできるから手をつけたこと、生理用品を盗んだのは、自分が血を流してここに生きてることを誰かに見つけてほしかったからだということ、椎葉は涙ながらに語る。
経済的に追い詰められた彼女が選んだ手段を一方的に断罪する学校の対応に対し、御上と生徒たちは立ち上がる。生徒たちは椎葉の退学撤回を求める署名活動を開始し、大量の署名を集める。結果として、学校側は方針を転換し、退学を撤回することを決定。さらに、支援システムの構築を約束するという、まさに「満額回答」を得る。これは生徒たちの勝利と言えるが、古代が溝端をはめるために促したという側面もあることがほのめかされる。
一方、槙野恭介(岡田将生)は同僚の津吹が過労で倒れたことを案じる。なんのために働いているのかと自らの立場に疑問を感じ始めている様子が見て取れる。官僚は世間の攻撃にあいやすい職業だが、一般企業以上に激務に襲われている。官僚の労働問題は本作の主要テーマではないが、端々に顔を出している。官僚のせいにしていれば、日本が良くなるわけじゃないと、案にほのめかしているのかもしれない。
一方で、物語の裏では、官僚の塚田幸村(及川光博)と古代の関係が徐々に描かれるようになってくる。塚田は御上のクラスの成績が下がっていることを理由に文科省の戻すことを検討していると良い、古代は御上には可能性を感じるので様子を見たいと言う。対立しているようだが、裏でつながっている、そんな雰囲気を醸し出す会話を繰り広げる二人。二人の思惑が御上の今後の立場にも影響を及ぼす可能性が示唆された。
貧しくなっている日本の現実
今回のエピドードでは、相対的貧困の話が出てきた。日本は今確実に貧しくなっている。G7の中で相対的貧困が一番高いのは、事実だ。椎葉はそんな現代社会で、貧困に苦しんでいる大勢を象徴する存在だ。
ちなみに日本の相対的貧困率は15%を超えている。6人に1人が貧困だ。このドラマの舞台である学校に例えれば、40人学級の中で6〜7人くらいは貧困に苦しんでいる計算になる。アメリカは格差社会でトランプ現象が起きたというようなことが言われているが、そのアメリカよりも相対的貧困率が高いのが今の日本だ。なぜかそのことがあまり強く意識されないのだが。
「生きづらさは政治につながっている」――御上のこの言葉は、椎葉の問題が単なる個人の事情ではなく、社会全体の課題であることを強調する。最終的に、椎葉は店を売る決断を下すが、それは彼女が「頼ること」を学び、前を向くことができた結果だった。
『御上先生』第7話は、個人の問題を社会の問題として捉える教育の在り方を問いかける、非常に意義深いエピソードであった。御上と生徒たちの奮闘が、今後どのように物語を動かしていくのか、次回も目が離せない。
登場人物
御上孝(松坂桃李)
是枝文香(吉岡里帆)
神崎拓斗(奥平大兼)
富永蒼(蒔田彩珠)
次元賢太(窪塚愛流)
千木良遥(髙石あかり)
倉吉由芽(影山優佳)
櫻井未知留(永瀬莉子)
槙野恭介(岡田将生)
溝端完(迫田孝也)
一色真由美(臼田あさ美)
津吹隼人(櫻井海音)
中岡壮馬(林 泰文)
真山弓弦(堀田真由)
謎の青年(高橋恭平)
塚田幸村(及川光博)
冴島悠子(常盤貴子)
古代真秀(北村一輝)
東雲温(上坂樹里)
椎葉春乃(吉柳咲良)
御上宏太(新原泰佑)