TBSの日曜劇場、松坂桃李主演の『御上先生』が最終話を迎えた。最後は「考え続ける」ことそのものについてのエピソードとなった。隣徳学園の不正入学問題を巡る攻防が終盤を迎え、御上孝（松坂桃李）と槙野恭介（岡田将生）が教育行政の闇に立ち向かう姿が描かれる一方で、根本的に「教育とは何か」とは答えの出せないものであるということ伝える内容だ。
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千木良の不正は本人の意志ではない
前話で明らかになった通り、槙野こそが「倭健命」の正体であり、彼は文科省で、御上は隣徳学園でそれぞれ証拠を集めていた。過去の回想では、槙野が直属の部下である高見の過労死を悔やみ、上司である自分の責任を痛感する姿が描かれる。御上は「後悔は一生続くが、それでも生きろ」と槙野に語りかけ、共に教育改革に立ち向かために、隣徳と文科省の癒着を暴くことを誓う。
現代に戻り、槙野は不正入学に関する証拠データを御上たちに提供する。一方、神崎拓斗（奥平大兼）は、自らの手でクラスメイトの千木良遥（髙石あかり）と向き合おうとする。千木良は不正入学の事実を知りながらも、今では成績優秀な生徒である。しかし、自身の立場に苦しみ、妹や他の生徒の未来を考えると簡単に答えを出せない。
そもそも、不正入学は生徒たちの意思ではない、権力を持っている大人たちが勝手に子どもたちの未来を決めるためにやっているのだ。千木良の場合も父親が勝手に隣徳に頼み込んだことなのだ。
報道の加害性を思い知る神崎
御上は特別授業を開き、「考える力」とは何かを問う。戦争の正当性を例に挙げ、答えの出ない問題に向き合い続けることの重要性を説く。この授業を通じて千木良は「逃げない」選択をし、神崎は報道の加害性に向き合うことになる。
答えの出せない問題はこの世にたくさんある、でも考え続けること、答えが出ない問題を投げ出さずに考え続ける力そのものが「考える力」だと御上は言う。千木良は、神崎に対して新聞記者になるのなら、こういう時に報道しないという選択肢はないはずと問いかけ、自らの人生を犠牲にする覚悟で、この不正を暴いてほしいと神崎に託す。そして、溝端もまたその思いに応えて、自分が不正に加担していたことを認めて神崎にデータを渡す。
神崎はデータを精査し記事を書く。そのプロセスは報道の加害性を認識するものだった。「自己嫌悪になりながら記事を書いた」と言う神崎は、その記事を父親に託す。
この作品の最も大きな美点は、報道は誰かを傷つける凶器であると描いたことにある。これは報道だけじゃない、ドキュメンタリーもフィクションも、どんな表現も誰かを傷つける刃を秘めている。あらゆる表現は多かれ少なかれ、自己嫌悪を抱えた上でなされるべきだと筆者は思う。それを失うと傲慢なものを生み出してしまうと考えている。
教育とは何か、御上も考え続ける
不正が新聞の一面を飾り、塚田（及川光博）と古代（北村一輝）と中岡（林 泰文）は失脚する。御上は「生徒たちを守る」と誓い、槙野は不正に関与した古代真秀（北村一輝）を追い詰める。古代は教育改革の必要性を認識しながらも、自身が泥を被ることを選び、御上に未来を託す。古代は道を踏み外したが、教育に書ける熱意と理想は本物だったとこのドラマは結論づけた。理想があっても道を踏み外すことがあるのだというのは、人生の落とし穴だ。
卒業式の日、神崎は「考え続けること」を誓い、御上も「教育とは何か」という問いに向き合い続けることを決意する。槙野は教職課程を学び始め、教育の道へと歩み出す。御上の言葉通り、答えのない質問を抱え続けることこそが、未来を切り開く鍵なのかもしれない。
最終話は、教育とは何か、生徒の未来を守るとはどういうことかを真正面から問う、力強いメッセージが込められた回だった。御上と槙野をはじめとする大人たちの葛藤、そして生徒たちの成長が見事に描かれ、視聴者に深い余韻を残した。
登場人物
御上孝（松坂桃李）
是枝文香（吉岡里帆）
神崎拓斗（奥平大兼）
富永蒼（蒔田彩珠）
次元賢太（窪塚愛流）
千木良遥（髙石あかり）
倉吉由芽（影山優佳）
櫻井未知留（永瀬莉子）
槙野恭介（岡田将生）
溝端完（迫田孝也）
一色真由美（臼田あさ美）
津吹隼人（櫻井海音）
中岡壮馬（林 泰文）
真山弓弦（堀田真由）
謎の青年（高橋恭平）
塚田幸村（及川光博）
冴島悠子（常盤貴子）
古代真秀（北村一輝）
東雲温（上坂樹里）
椎葉春乃（吉柳咲良）
御上宏太（新原泰佑）
戸倉樹（高橋恭平）