TBS日曜劇場『キャスター』第7話は、複雑すぎる展開が裏目に出ているが意欲作、という感じだ。目まぐるしく変化していく展開が持ち味の本作だが、早すぎて唐突な展開は、ご都合主義な感覚も抱かせる。テーマは重厚なだけにじっくりと描いてほしかった。
あらすじ
第7話「命か?違法手術か?」は、藤井真弓(中村アン)が娘の違法な臓器移植のために病院に向かうところから始まる。進藤壮一(阿部寛)が病院に踏み込もうとした矢先、違法な臓器移植を斡旋する深沢武志(新納慎也)が進藤の娘を脅迫の材料に取り、警察の捜査を中止するよう脅迫してくる。深沢はどうやって進藤の娘にたどり着いたのだろうか。
一方、崎久保華(永野芽郁)は、幼い命を救うためとは言え、勝手な行動をとったことに対する上司への謝罪後、週刊誌記者の南亮平(加治将樹)に接触するが手がかりを得られない。しかし、病院で進藤がある男と接触している映像を入手し、その男が自分の父・川島圭介(山中崇)であることを知って衝撃を受ける。
警察がNPO法人ひまわりネットに家宅捜索を行う中、崎久保は藤井から、深沢にトルコではなく国内での違法手術を勧められたことを聞き出す。クラウドファンドでの資金調達を検討する崎久保に、藤井は感謝しつつもメディアとの関わりを拒否する。
父・川島との対面で、崎久保は11年前に姉の海外での違法臓器移植に反対した川島の過去を思い出す。医者として一線を越えてはいけないと考えていた川島だが、その選択が正しかったのか悩み続けていたのだった。
崎久保は生放送で進藤に詰問し、父と深沢によって進藤が脅迫されていた事実を暴露する。しかし進藤は自分の行動は間違っていないと断言し、11年前の姉の報道についても後悔はないと言い切る。崎久保は進藤をジャーナリストとして認めないと宣言する。
その後、崎久保が立ち上げようとしていたクラウドファンドサイトは、進藤の指示で偽サイトとして立ち上げられ、深沢を釣る目的で利用される。進藤と崎久保の駆け引きが続く中、崎久保は父に最後の手術を頼み、進藤と取引を行う。藤井の娘・ユキノの手術が終わるまで報じず逮捕は待ってほしい、その代わり、手術に関わった人間全員、自分も含めて逮捕で構わないと。
しかし、手術開始直前、本橋が駆け込み、ドナーが確認不備の14歳家出少女であることが発覚する。またしても、進藤は崎久保を出し抜いたのだが、進藤は川島と相談して合法的な手術の段取りを整えていた。結局、手術は無事成功し、崎久保は父の逮捕される姿をカメラに収め、報道マンとしての責務を果たすことになる。
最後に深沢の服毒自殺の速報が入り、川島は崎久保に、姉は進藤のスクープがなくても助からなかったという真相を告げる。進藤の妻は夫が過去にとらわれていることを冷たく指摘する場面で物語は終わる。
見どころと評価のポイント
TBS日曜劇場『キャスター』第7話は、臓器移植という重いテーマを扱いながら、報道倫理との葛藤を描いた意欲的なエピソードである。しかし、物語の複雑さが整理しきれず、視聴者にとって消化不良な印象を残す結果となった。
良い点:テーマ設定の重厚さ
今回のエピソードで評価できるのは、命を救うための違法手術と報道の責任という、現代社会が直面する深刻な問題を正面から取り上げた点である。進藤壮一(阿部寛)と崎久保華(永野芽郁)の対立構造も、単純な善悪論では割り切れない複雑な状況を描き出している。
特に、崎久保が父・川島圭介(山中崇)を通じて過去の事件と向き合う展開は、ジャーナリストとしての信念と家族愛の狭間で揺れる人間性を表現しており、ドラマの核心部分として機能している。
生放送での進藤と崎久保の対決シーンは、両者の信念がぶつかり合う緊張感に満ちた名場面となっている。進藤が11年前の報道について「間違いと思ったことは一度もない」と言い切る場面は、ジャーナリストとしての矜持を表現した印象的なセリフである。
問題点:唐突な人間関係と展開の強引さ
一方で、今回のエピソードには看過できない弱点が存在する。最も大きな問題は、崎久保の父との因縁が突然登場した点である。これまで7話にわたって積み重ねられてきた物語の中で、この重要な背景が全く描かれていなかったため、視聴者にとって唐突な印象を与えてしまった。深沢についても冒頭で意気揚々と進藤の娘をネタに脅しているのに、その後、情けなく逮捕されるに至る。進藤を出し抜けるほどの知恵者かと思ったら、全然そんなことはなかった。
また、藤井真弓(中村アン)の娘・ユキノの臓器提供者として、ユキノの産みの母親が見つかるという展開も、あまりにもご都合主義的である。
クラウドファンドの偽装工作についても、編集の尾野順也(木村達成)が簡単にサイトを作成して、それがニュースにまでなっているという展開は現実味に乏しい。その番組は裏取りをせずに報じているのだろうか。
演出面での課題
物語の構成においても、複数の要素が同時進行するため、視聴者が状況を把握するのが困難になっている。深沢武志(新納慎也)による脅迫、警察の捜査、クラウドファンドの偽装、そして最終的な手術の成功まで、すべてが短時間で処理されすぎている感がある。
特に、進藤が最後に崎久保を出し抜く展開は、キャラクターの一貫性を保ちながらも、物語の流れとしてはやや強引である。合法的な手術の段取りを密かに進めていたという設定は、ドラマチックではあるが現実的な医療現場の手続きを考慮すると疑問が残る。
今後への期待
『キャスター』シリーズが持つ報道倫理への問題提起という強みは、今回のエピソードでも健在である。しかし、複雑なテーマを扱う際には、登場人物の背景をより丁寧に描写し、展開の必然性を高めることが重要である。
進藤の妻による「過去にとらわれている」という指摘は、今後の物語展開における重要な伏線となる可能性があり、この点については次回以降に期待したい。また、川島が告げた「姉は進藤のスクープがなくても助からなかった」という真相も、物語の核心に関わる重要な情報として今後の展開に影響を与えるだろう。
登場人物
進藤 壮一(阿部寛)
崎久保 華(永野芽郁)
本橋 悠介(道枝駿佑)
小池 奈美(月城かなと)
尾野 順也(木村達成)
チェ・ジェソン(キム・ムジュン)
戸山 紗矢(佐々木舞香)
鍋田 雅子(ヒコロヒー)
松原 哲(山口馬木也)
崎久保 由美(黒沢あすか)
横尾 すみれ(堀越麗禾)
進藤 壮一 (幼少期)(馬場律樹)
羽生 剛(北大路欣也) (特別出演)
尾崎 正尚(谷田 歩)
羽生 真一(内村 遥)
滝本 真司(加藤晴彦)
南 亮平(加治将樹)
梶原 広大(玉置玲央)
安藤 恵梨香(菊池亜希子)
市之瀬 咲子(宮澤エマ)
海馬 浩司(岡部たかし)
山井 和之(音尾琢真)
国定 義雄(高橋英樹)
深沢 武志(新納慎也)
川島圭介(山中崇)