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SOPAの後に残ったもの:Kill Hollywood

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SOPAについていつまで書き続けるんだよ、と思われるかもしれませんが、このエントリーともう一回書くと思います。
あー、廃案になってめでたし、めでたしという話じゃないと思うんで。

SOPA/PIPA反対運動で示されたのは、アメリカでは産業としての勢いだけじゃなく、ネットが言論、世論誘導の点においても既存のマスメディアを凌駕しつつあるという点です。ホントに世代交代の瞬間を見た思いです。このSOPA問題はカリフォルニアを拠点とする2大産業、ロサンゼルスのハリウッドとシリコンバレーのIT産業の代理戦争のようなもんです。

去年の7月、PIPAの法案が提出された時に、こういうエントリを書いたんですが、
ネットの革新を殺すProtect IP法案と先鋭化するハリウッドVSシリコンバレー
この記事の最後で僕はこんな風に書いたんですが、

IT先進国であるアメリカの象徴シリコンバレー、そして世界一の映画産業(著作権産業)であるハリウッド。両者の溝はこの法案をきっかけにより深いものになる可能性があります。

マジでこうなってしまいました。

Reddit、Dropbox、Justin.TVなどのスタートアップに出資したシリコンバレーの有名ベンチャーキャピタル、Y Combinatorがこんなイカついタイトルの記事をアップしました。
RFS 9: Kill Hollywood

RFSというのは、Request for Startupの略です。9は9個目ってことです。
スタートアップへのリクエスト:ハリウッドを殺せ。
穏やかじゃなさすぎる。。。

以下、抜粋を要約します。
「ハリウッドを運営している連中はとても卑劣で、強力に政治家との繋がりを持っている。それは人権を著しく侵害する恐れがあり、世界の経済を停滞させるものだ。それゆえ、ハリウッドと競争し、その滅亡を促進させることは良いことだと考える。

それが我々がテレビや映画と競争しうるスタートアップに投資する理由の一つだ。しかしそれは一番重要な理由というわけではない。我々がそのようなスタートアップに投資をしたい一番の理由は、今後出されるSOPAのような法案から世界を守るためではなく、SOPAが我々にハリウッドがすでに死に体であることを教えてくれたからだ。彼らは、最後の手段としてあのような手法に訴えるのならもう消滅すべきだ。もし映画とテレビが急速な成長を見せているなら、その成長の方に注意が向くだろう。ストライカーがペナリティエリアでファウルを犯されても、彼はボールをコントロールしている限り止まることはない。彼がレフリーにアピールするのは、彼が完全に倒された時だけだ。SOPAはハリウッドが「倒された」ことを示した。しかし、映画とテレビに魅了されている観客の数はまだ膨大だ。そこに大きなポテンシャルのエネルギーが存在し、それは解放されるべきだ。

映画とテレビを殺すであろうと思われているモノはすでに彼らを殺し始めている。それは人々を楽しませるより良い道である。ゆえにこの問題に取りかかる最も良いアプローチは自分自身に訪ねることだ:20年後に人は楽しむために、今やっていることの変わりに何をしているだろう?、と。

もし人々が(映画やテレビの)ショーを見る代わりにエクササイズや家族や友人と過ごすことにより多くの時間を費やしているとしたら、それは素晴らしいことだね」

要するに、
「ハリウッドさん、あんた汚すぎだわ。お前さんとこの観客ごっそりいただくから覚悟しとけよ。今お前らは娯楽の王様かもしれんが、20年後も同じ場所にいられると思うなよ、ていうか死にかけてんだろ?オレらがスタートアップ育ててトドメさしてやんよ」
ってことですよね。。。
完全に宣戦布告じゃないすか。。。

SOPAは確かに問題あります。僕も大反対だし、さんざん危険性について書いてきました。実際、ハリウッドお抱えのロビイスト、Chris DoddはFOXニュースで政治家を脅迫するような発言をしています。http://bquot.com/9ju

SOPAが廃案になってよかったと思っています。しかし、結末は最悪なのかもしれません。
SOPA反対運動が終わり、後に残ったものは「嫌ハリウッド」の感情。あるいは「嫌映画」かもしれない。

実際、Instapaperのを作ったエンジニアMarco Armentは自身のブログでこんなことを書いています。
The next SOPA

「MPAAと映画スタジオは僕らを嫌っている。彼らはリージョンコード、スキップできないスクリーン、暗号化とフェアユースの犯罪化を持って僕らを嫌っている。彼らは僕らのことを財布を持ったおバカなお客と思っている、そして彼らはコンスタントに僕らのお金を持っていく資格があると思っている。彼らは僕らを軽蔑している、明らかに尊敬の念を持っていない。

でも僕らが映画を見ると、彼らにとってそれはサポートになる。

たとえもし僕らが映画を映画館で観ず、プラスチックのディスクを買わなかったとしても、僕らはそれでも彼らをサポートしてしまっている。もし僕らが定額サービスのNetflixを観れば、そのサービス料は彼らに支払われ、そのお金は次回の彼らの権利の交渉に使われる。

彼らは僕らのサポートでもってあれらの法律を買おうとしている。

MPAAが次の法案を提案し、その時にまた抵抗のためにTwitterのアイコンを数日変えるなんてことよりも、もっと重要で生産的なことは今日から僕らが彼らへのサポートを減らす、あるいは無くすこと、それと選挙のファイナンスのシステムを作り直すことだ」

もう映画なんて観るのを止めよう。そう云っているように聞こえます。Aementに限らず、インターネットを趣味としている人の間には少なからずこういう気分が生まれていることは間違いないと思います。
実際、この記事なんかはY CombinatorのKill Hollywoodを支持していますし、

ハリウッドはアメリカのネット民を怒らせ、愛想をつかされたのかもしれません。

僕のこのブログは一応テーマがあります。映像という表現はインターネットの時代にどう変化していき、この新しいメディアをどう共存していくのか考えるというものです。
言い換えると映像産業とIT産業がWin-Winの関係を築くにはどうしたらいいのかを考えるためのブログです。

世界一の映画大国であり、世界一のIT大国であるアメリカではWin-Winの関係どころかLose-Loseの関係に向かっているようにも見えます。世界一のコンテンツメーカーのハリウッドと世界一の情報流通プラットフォームを築いたシリコンバレーが協力しあうというのはもうあり得ないことなんでしょうかね。。
そこに映像表現の未来があったはずなんですが。。。

テッククランチのライター、MG Sieglerは安易なアンチ映画の流れに釘をさしてくれいます。かいつまんで翻訳します。
Kill Hollywood, Not Movies

「SOPAとPIPAが失敗に終わったことは、それら自身の内容と同等に興味深い点がある。一つはついにウェブ上の多くの人たちがいかにこの国のロビーイング・政治システムは腐っているかに気づいたこと。もう一つは直接に関係することだが、アンチハリウッドの感情が急速に沸き上がっていることだ。

(Y Combinatorの記事について)腐ったMPAAに対する重要なネッセージであり声明だ。しかし、ハリウッド産業とアートフォームとしての映画を分けて考えることもまた重要だ。

私は多くの人がこの「ハリウッド映画はクソだ」のバンドワゴンに飛び乗るのを先週から見てきた。しかし、それは全てが正しいとは云えない。多くの場合、映画は、純粋にクリエイティビティと質の観点から云って、かつてよりも良くなっている。メジャー映画は相変わらずだが、インディーズ映画は製作コストの低下のおかげで非常に素晴らしいものが揃っている。

現在、ものすごい量のビデオコンテンツがウェブにはあるが、長編映画のクオリティに達するものは非常に少ない。PandodailyのSarah Lacyはブラウザは映画館のように長いコンテンツを見るのに適さないからだと云う。

しかし、インターネットはすでにウェブだけのものではない。AppleTV, Roku, Boxee, GoogleTVなどハリウッドスタジオの配給システムの代わりとなれるようなメソッドが生まれつつある。

ハリウッドが賢い連中の集まりなら、だれよりも早くこの変化に対応するだろう。彼らのキラーコンテンツを最も効率よく提供できるこのシステムを。彼らがやらないのなら、他の誰かにその役割を取られてしまう。

残念ながら、賢くはないようだが」

そう、ハリウッドがインターネットに対して敵意ばかりじゃなく、可能性を感じてくれたらWin-Winの関係を築くことも不可能じゃないんじゃないかな。

そして、映画そのものは素晴らしいコンテンツであって、決して放棄したりするものじゃないはず。20年後、人は映画を見なくなるのか。ブラウジングに適してないから?本当に?
ハリウッドがヒドい連中の集まりだから、全ての映画を観るべきじゃないのか?(ていうかシリコンバレーはどうなんだよ。。。みんな良い人なわけ?)

映画とネットの未来はそんなつまんないモノじゃないはずだ。

参考リンク
「成功とは生み出すものというより、発見するもの」

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